ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

『日本AV全史』発売!


 新刊『日本AV全史』(ケンエレブックス)が発売になりました。タイトル通りに日本のアダルトビデオの全歴史をたどる一冊で「日本のAVの歴史教科書」を目指して書きました(笑)。

 日本のAVの歴史は、1981年から始まるというのが定説なのですが、映画が誕生した18世紀からブルーフィルム、お色気映画、成人映画、そしてビニール本に至る流れも前史として書いています。
 黎明期となる80年代前半、市民権を得ていく80年代後半、オルタナティブな作品が続出した90年代前半、インディーズ旋風が巻き怒る90年代後半、次々と主役が交代し、AV女優が憧れの存在となっていく00~10年代。そして出演強要問題からの適正AV、昨年のAV新法設立まで、業界の動きを中心に綴りました。

 雑誌などでは特集はよくやっているし、ムックなども出ているので意外に思われるかもしれませんが、実はAVの歴史について書かれた書籍はほとんどなく、全体の歴史となると藤木TDCさんが書いた『アダルトビデオ革命史』(幻冬舎新書)一冊しか見当たらないんですね。この本も80年代の流れが中心ですし、2009年発売なので当然10年代以降の動きは書かれていないわけです。
 つまり現在までのAVの歴史をまとめた書籍は、本書のみということです。

 AV生誕30年にあたる2011年の時は、多くの雑誌で特集が組まれましたし、僕が監修者となり30社以上のメーカーが参加したプロジェクト「AV30」のような動きがあったのですが、40周年にあたる2021年は、そうしたイベントもありませんでした。
 AV40周年のタイミングで、歴史をまとめておきたいなと思っていたところ、ケンエレブックスさんから本書の企画を打診され、渡りに船と執筆を開始したのです。まぁ、結局なんだかんだで時間がかかり、生誕40年の2021年から2年遅れての刊行となってしまいましたが(笑)。
 
 あくまでも業界の動きを中心に書いているので、AV女優・監督個人についてはあまり触れられませんでしたから、重要な存在なのに、なんであの人が登場しないの?という感想を持つ人も多いと思います。できるだけ客観的な視点から書こうと意識はしていましたが、それでもやはりこれは安田史観でのAV史です。個人的に思い入れの強い90年代に関してはどうしても濃くなってしまいます。ゴールドマン監督への記述は多すぎると自分でも思います(笑)。
 他の方の視点から書けば、また全然違うAV史が生まれるでしょう。ぜひ読みたいので、色んな書き手にどんどん書いて欲しいんですよね。

 どんなものにも文化はあり、歴史があるというのが僕のスタンスです。単なる性欲のはけ口だと思われているAVにだって、40年の歴史の中で様々な変化がありました。そしてそこには、多くの人たちが切磋琢磨を続けてきた文化としての積み重ねがあります。この本を通して、少しでもそれが伝わればいいなと思っています。
 巻末の36ページに渡る長大な年表を眺めるだけでも、その歴史の重さは感じられると思うんですよね。

 一部で話題となっておりますが『日本AV全史』は、装丁に凝りました。デザインは(Ya)matic studioこと野田大和さん。実は本編中にもゴールドマン監督の初期作品における先鋭的なデザインワークを担当したデザイナーとして名前が登場しているんですが、以前から単著の装丁をやってもらいたいなーと、ずっと思っていたんですね(1991年にゴールドマンのレーベルから発売した僕のバンド、モデルプランツの2枚のシングルCDは彼のアートワークでした)。
 この電書時代において、紙の書籍を買ってもらうには、ブツとしての魅力が必要だというのは常々考えていて、そのひとつの答えとして野田さんのデザインがありました。昔からギミックを考えるのが好きなんですよ、野田さん。その野田さんに好き放題にやってもらいたかった。
 これはケンエレブックスという版元と、五十嵐さんという編集者だったからこそ実現できたと思います。こんな装丁、他の出版社じゃ、なかなかゴーが出ないよ(笑)。
 VHSビデオカセットをイメージした表紙とカバー、そして小口(角度によって絵が変わる)やページ下のパラパラ漫画、シール裏に至るまでギミック満載。これはぜひ実物を手にしていただきたい。楽しんでいただきたい。

 僕がAVについて初めて原稿を書いたのは1987年。当時、編集をしていたアイドル雑誌のAVコーナーを担当したのがきっかけでした。それから36年間ずっとAV関係の原稿を書き続け、時には制作側の立場としてAVに関わってきました。それが今、こういう本を出せるというのは、書き手として本当に幸せだな、と思うのですよ。2019年の『日本エロ本全史』(太田出版)と本書を書けたことで、もう思い残すことはないです。
 ……とは言いつつも、次にも楽しそうな本の企画が進行中なのですが(笑)。

 先日の発売記念イベントでは、某メーカーさんが大量に購入してくださいました。社員に配るそうです。AVメーカー様、業界関係各社様、社員教育教材としていかがですか?(笑)。色々黒歴史も書いちゃってるから怒られそうではありますが……。

 というわけで安田理央、渾身の一冊、『日本AV全史』、ぜひお買い求めくださいませ!


↑こちらから買っていただくと、僕にアフェリエイトが入りますので、よろしければ(笑)。

 ちなみに『日本AV全史』発売記念ということで、『痴女の誕生』『巨乳の誕生』『日本エロ本全史』という太田出版での3冊の電子書籍が、なんと50%オフという出版社の枠を超えたセールが行われております。2/16まで! この機会にこちらもぜひお読み下さい!
www.ohtabooks.com

AVが描いた震災

 これは2011年に「WJC」という雑誌に書いたコラムですが、AVから「ドキュメント性」が失われつつある今、ちょっと再掲載してみたくなりました。90年代に一部の文化人に熱狂的にAVが支持されたのは、このアナーキーなドキュメント性によるものであり、それは映像表現の新しい可能性を見せてくれるものでした。それが近年、ドキュメント性を打ち出すことが難しくなり、そして今回の「AV新法」によって完全に失われてしまうのはやはり残念に思います。

AVが描いた震災

 地震から約一週間後の3月19日に「ビデオナイト」というイベントに出演した。出演者がレアな……、というか奇妙変なビデオを持ち寄って上映し合うというイベントで、基本的には不謹慎極まりない内容なのだが、自粛せずにあえて開催した。

 この日も、カルト宗教のPRビデオや、冗談としか思えない絵柄のタトゥーを全身に入れた女のビデオなどフリーキーな作品が次々と上映されたが、僕は当初に用意していた予定を変更して「18歳 中退してから」(V&Rプランニング)「スケこまし、出したあとは綺麗にしてね」(ビックマン)という90年代に作られたAVを見てもらった。

 前者は、バクシーシ山下監督がAV女優を連れて、阪神大震災後の神戸に既知の男優を訪ねていくという95年の作品。ハンディビデオカメラの撮影による瓦礫の山となった神戸の光景が極めてリアルであり、そして一般のドキュメンタリーでは触れられることのない「震災被害者にも性欲がある」という当たり前の事実を伝えてくれる快作だ。コレクションのAVがみんな燃えてしまったと寂しそうに自宅跡を案内した後に、心の底から嬉しそうに女優とセックスをする男優の表情が素晴らしい。

「18歳 中退してから」より

 そして後者は伊勢麟太郎監督による90年の作品で、サブタイトルは「原発ピンク列島」。そう、これは反原発をテーマにしたAVなのだ。イントロダクションからして、原子力に関するニュースフィルムが延々と続く。パッケージは普通のAVなので、オナニー目的でこれを借りた人にとっては災難としか言い様がないだろう。主な内容は、車で北陸の各原発をまわり、その前でセックスするというロードムービー。若き日の松尾スズキ村松利史が登場するコント風ショートムービーもあるが、その中でもひたすら反原発の思想が展開される。80年代末の反原発ブームの影響下で作られた作品だが、AVの歴史の中でも一、二を争う怪作だと言えるだろう。

原発ピンク列島 スケこまし、出したあとは綺麗にしてね」より

 今回の震災後に上映するにはあまりにタイムリーなこの二作品。AVの枠は、はみ出してしまっているものの、どちらもエンターテイメントとして、きちんと成立している点を評価したい。そして、こんな異形の作品も、商品として流通させてしまっていた90年代AVの「なんでもあり」感に、改めて驚かされる。
 他のジャンルでは、こうした角度から震災や原発を語ることは出来なかっただろう。

 ただし現在のAVは、本来の機能(すなわちオナニー)に特化し、余分なものは排除するという方向に進化しているため、こうしたアプローチは難しくなっている。恐らくAVからは今回に震災に対して、この二作品のような表現は出てこないと思われる。
 ならば10年代の現在では、どのジャンルがこうした違う切り口から、今回の震災を描くのだろう。正当性を評価されづらい鬼っ子的なジャンルとしては、ニコニコ動画あたりが近い存在のような気がするのだが。

※結局、東日本大震災ではカンパニー松尾監督が『恥ずかしいカラダ DOCUMENT 愛咲れいら』を撮った。また松尾は2016年の熊本地震でも「世界弾丸ハメドラー ふるさと 神ユキ」という作品を撮っている。

アダルトメディア変遷史


 先日(2022年4月10日)、新宿ロフトプラスワンで開催されたイベント「コアチョコTシャツデスマッチ」に出演して、「アダルトメディア変遷史」というプレゼンをしたのですが、まぁ実演だけではちょっともったいないかなと思ったので、改めてここにまとめておきます。60年代から現在にかけて、登場しては消えていった動画・音声メディアを紹介しています。

01 8mmフィルム


公式に発売された動画アダルトメディアとしては8mmフィルムが一番古いのではないでしょうか。それ以前にもブルーフィルムが16mmでも出回っていましたが、アンダーグラウンドな裏メディアでしたし、かなり高価でしたからね。

僕が所有している「大奥浮世風呂」は1977年の東映作品のポルノで主演は「愛のコリーダ」の松田英子。フォーマットはシングル8で、トーキー(音声入り)対応なのですが、まだトーキー映写機が普及していなかったためか、音声入りのカセットテープが付属していて、同時に再生できるようになっています。定価は9,800円。

こうした8mm映画フィルムは、70年代からビデオに取って代わられる80年代初頭まで発売されていました。

02 8トラック


8トラックは、60年代から70年代にかけて主に音楽メディアとして扱われていたカートリッジテープメディアです。既にコンパクトカセット(いわゆるカセットテープ)も開発されていたのですが、まだモノラルだったため、音楽用としてはこの8トラックが主流となりました。

コンパクトカセットが主流となる70年代後半でも、カーステレオやカラオケ用としては80年代まで現役だったようです。

これは70年代後半くらいの商品だと思うのですが、おそらくトラックの運転手用に作られていたのでは? 現在、8トラックの再生装置を持っていないので内容は聞くことは出来ないのですが……。意外に中古市場で見かけるので、そこそこ作られていたようです。

「最新版 悦楽」のみ、パッケージに価格が表記されているのですが、定価は4,800円となっています。

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「メトミックアクション 温泉ズンドコ芸者」(1992年)の演説

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 最近、死蔵してた8ミリビデオのテープをデジタルデータ化する作業をしています。あ、こんなもの撮ってたのか、という貴重な映像もあるんですが、一時期はVHSを使うように8ミリビデオに録画してたので、色んなソフトをダビングしてたりしてたんですね。そんな中から、1992年の「メトミックアクション 温泉ズンドコ芸者」(スーパークリスタル)を発掘しました。

 監督は中野貴雄。最近ではウルトラマンシリーズの脚本などで知られていますが、90年代には、モンドな映画の要素を大胆に取り入れた、かなり異色のAV監督として注目されていたのです。特にこのメトミックアクションシリーズは、特撮映画(「海底轟姦」)やスパイ映画(「マル秘絶頂大作戦」)など、60~70年代の邦画テイストを見事にパロディ化したAVで、傑作ぞろいでした。

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温泉ズンドコ芸者 メトミックアクションシリーズ10(クリスタル映像

 で、今回発掘した中に「温泉ズンドコ芸者」もあったんですね。タイトルからわかる通りに東映温泉芸者シリーズのパロディなんですが、まぁ、メトミックアクションの他の作品に比べると、かなりユルいというかメタな構成で、途中で意味不明な監督インタビューコーナーが始まったり、花電車の技術を競う芸者三番勝負が始まったり、ハメ撮りが始まったりするんですが、ストーリーがうやむやなままに撮影が終了し、打ち上げの宴会に突入。
 宴会シーンで、キャストのクレジットなど出て、これで終わりかと思っていると、突然、登場人物の一人であった西条承太郎(男優時代の二村ヒトシ)が、叫び始めます。

みんなは本当にこれでいいのか?
こんなことだからアダルトビデオにドラマはいらないなんて書かれちゃうんじゃないのか?
それも本当のドラマも本当のドキュメンタリーも見たことのない連中にだ。
本当の現実と本当の虚構の区別もつかないアマチュアのような連中にだ。
いいか、僕たちはプロだろ?
お客さんをだまして嘘をついて
そして喜んでもらうのが商売だろう?
なのに、一番最初に変なインタビューがあって
19かそこらの娘の世迷い言を聞いて
淡々としたセックスをして
「あ、君もとうとう大人への階段を登り始めたんだね」
こんなことでいいのか?
あるいは
「本当のAVの味を教えてあげるよ」
とか何とか言って、弱いものいじめのレイプをして
「ああこれで女の生の反応が撮れた」
そんなことでいいのか?
見てる奴だって人間なんだ。
人間ってのはね、そんな単純なものじゃないんだよ。
皮を何枚も何枚もかぶってるんだ。
だからこそ我々架空のキャラクターだって皮をかぶらなければいけない。
仮面をつけなければいけない。
だいたいこのテレビのブラウン管がひとつの仮面なんだ。
おれは負けないぞ。
最後の最後まで嘘をつき続けてやる。
おれはあきらめないぞ
最後の最後まで嘘をついて、観客をだましてやる。
それがドラマだ。
現実を遥かに超えた豊穣な物語空間、
それがドラマだ。

その後、西条は布団で目を覚ます。
「怖い夢を見た。
天狗の一番汁の安否も恋の三角関係も薔薇蜥蜴の行方も何一つ解決つかないまま、
宙ぶらりんのまま話が終わってしまうんだ。
まさかこのまま、エンドマークが出るんじゃないだろうな。
え、夢オチ?」
そして「終」のエンドマーク。

というように、ある種投げやりなメタ落ちになってるのですが、西条の長い演説のセリフは当時の中野貴雄のAV業界に対する本音も垣間見えるような気がします。
そして、個人的に男優時代の二村ヒトシの一番好きなシーンはアレなのですよ。
こんなセリフを語った彼がその後、TOHJIRO監督を師事してドグマで監督として活躍したというのも、なんか面白いなぁ。

メトミックアクションシリーズ、復刻も配信もされていないようで残念なのですが、もし中古のVHSなど見かけたら、マストバイですよ。

IT革命はAV業界の黒船か?

 ここのところ、毎日のようにデジカメによるハメ撮りをしている。会員制のアダルトサイトを始めるためだ。旧知の業者から持ち込まれた仕事なのだが、これが意外なほどにギャラがいい。AVよりも雑誌よりも、ずっと美味しいハナシなのだ。その業者は、他にもいくつも似たようなサイトを運営しているのだが、恵比寿の一等地に何フロアも事務所を持っていて、何とも景気がよさそうだ。構造不況に陥っているエロ雑誌業界やAV業界で働いている身から見ると羨ましい限り。何だかんだ言っても、まだまだ時代はITですか。

 かつて裏ビデオの存在がVHS・ベータ戦争の勝敗に大きく影響したという(裏ビデオはなぜかVHSモノばかりだった)伝説があり、それ以降、新メディアを普及させる牽引力となるのはアダルトソフトだ、と語られることが多い。個人的には、その意見には少々異議もあるのだが、ま、インターネットの世界においてもアダルトモノの影響力は強く、その普及に一役買ったことは事実だろう。無修正画像が見たいがためだけにネットを始めた人というのは少ないだろうが、いくつかの理由のひとつとして、「アダルトモノも見れるしぃ」という思いがあった男性は多いはずだ。

 しかし、このネットの存在が既存のアダルトメディアに与えた影響は大きい。特にエロ雑誌の没落の原因のひとつとして、ネットに「客を取られた」ことが上げられるだろう。なにしろ本屋で恥ずかしい思いをしてエロ雑誌を買わなくても、無料でいくらでもエロ画像もエロ情報も得られるのだから。ただでさえエロ雑誌は中小書店の激減により、売っている場が少なくなっている(現在、雑誌販売のメインであるコンビニと大型書店にはエロ雑誌は置かれていない)のだ。マウスを数回クリックするだけで、いくらでも入手できるエロコンテンツを、わざわざ町のアダルト専門書店にまで足を運んでまで買うマニアックな読者は、やはり少ないだろう。

 問題は画像などが雑誌からの無断転載が多いということだ。無修正画像にしても、裏本をスキャンしたものがほとんど。元になるコンテンツを作っている側の人間としては、やっぱりちょっと複雑な気持ちになる。撮影だってタダじゃないし、苦労してんだぜー。

 この辺の関係は、音楽業界におけるナップスターとか、出版業界におけるブックオフの存在に似ていると思う。それが将来的にはユーザーのパイを広げることになるかもしれないが、そんな悠長なことはいってられないほど、業界のお尻には火がついているところとかも、同じだし。

 ところで来年あたりからインターネットのブロードバンド時代が本格的に到来しそうだ。政府が昨年発表した「IT国家基本戦略」によれば、2005年までに3000万世帯がDSLなどの高速常時接続、1000万世帯が光ファイバーなどの超高速常時接続環境を実現させるんだそうだ。ま、この目論見が絵に描いたモチなのかどうかはわからないが、とりあえずケーブルTV回線やADSLは確実に広がっているし、無線や電力線による新しい試みも実用段階に来ている。

 ブロードバンド時代と来れば、やはり動画配信が目玉になるだろう。アダルトで動画とくれば、つまりAVである。インターネットでAVが配信される時代がやってくるのだ。もちろん今でも画質の低いムービーはダウンロードできるのだが、ブロードバンドともなれば、VHS以上のクォリティでの配信が可能になるだろう。これは、つまりビデオレンタルショップの死を意味している。

 これまでAV業界はレンタルショップと密接な関係を持っていた。いわゆるAVはレンタルショップ専用として制作されている。そしてショップへビデオを卸しているのが問屋。AVにおけるヒットというのは、何人のユーザーが借りたかということではなく、問屋がメーカーから何本仕入れてくれたか、ということになる。AVメーカーは、どうしてもユーザーよりも問屋の方を向いた制作をやらざろう得なくなるのだ。問屋主導の弊害である(こうした構造に異議を唱えた形で90年代半ばから台頭して来たのが、インディーズAV=セルビデオだ)。

 ブロードバンドによる動画配信時代がやってくれば、問屋もショップも不要になり、メーカーは直にユーザーにコンテンツを配信できる。音楽の場合、ジャケットも持っていたいというパッケージ商品に対する購買欲も高いだろうが、AV(もはやビデオではないけれど)の場合は、もともと中身だけをレンタルしていたわけで、コンテンツのみの販売にも抵抗はないだろう。むしろ一回見れば十分、手元には置いておきたくないというユーザーが大半だろうし。

 80年代の黄金時代からすれば、どうにもパッとしないムードが続くAV業界も、ネットでのダイレクト配信時代がくると、また息を吹き返すかもしれない。少なからず業界に関わっている人間としては、ついそんな期待を抱いてしまう。今年三月からブロードバンドにも対応したAVのスクリーミング放映サイト「Webee」も登場した。本格的なAV配信時代は、もうそこまで来ているのだ。

 しかし大きな問題もある。コピーである。雑誌の静止画と同じように、ネット上に無料のコピーが溢れた場合、有料のコンテンツを欲しがるユーザーがいるだろうか? さらに無修正の裏動画も容易に入手できるようになるだろう。それでも、修正済みコンテンツに代金を払ってくれるユーザーがいるだろうか?

 ブロードバンドでの動画配信はAV業界にとっては、正に黒船だ。その後、業界が再び盛り上がるのか、それとも完膚無きまでに叩きつぶされてしまうのか、まだわからない。

 ただひとついえるのは、無料でコピーが溢れることで、一番被害を受けるのは、モデルの女の子たちなのだ。僕らは「少部数のマニア誌だから」とか「セルビデオだから見る人の数は限られてるよ」などと言って女の子を安心させて撮影している。それがネット上で無断で何十万もの人にダウンロードされてると、彼女たちが知ったら…。

*「BUZZ」(ロッキングオン) 2001年1月号 「SEX,BRAIN,ROCK'N ROLL」より。
ちょうど20年前、こんな話をしてたわけです。

改めてアダルトVRを体験する。そしてアダルトVRの現状など

 アダルトVRに対しては態度を決めかねていた。
 VR元年と言われた2016年にはずいぶん取材もしたし、スマホを取り付けるタイプのゴーグルも購入してVR作品をいくつか試してみた。個人的な感想としては「うん、まぁ、面白いんじゃないの?」と言ったところだ。そして「でも、まぁ、すぐに飽きるかな」と言うのが結論であった。
 いや、確かに面白い作品もあるにはあったのだ。
https://rioysd.hateblo.jp/entry/2017/05/28/171503rioysd.hateblo.jp

 でも、だからと言ってVRにハマったかといえばそんなこともなかった。やはり、色々セッティングしてゴーグルをかぶって……という手間をかけてまで見ようという気にはならない。
 そうして、VRゴーグルは棚の上でホコリをかぶっていった。

 VR作品が売れていて、FANZAなどでも売上サンキングの上位にかなり入っているとか、VR頼りになっているAVメーカーも多いなんて話は聞いていた。ただ、その反面、一般的には以前ほどVRの話題を聞かなくなっていたのも事実だ。どうも一部の熱心なファンが市場を支えていて、広がりがあまりない、というのが現状のようだ。筆者の周りでも、アダルトVRの熱心なファンはポツポツいて、その素晴らしさを語ってくれるのだが、今ひとつ心に届いてこない。
 とりあえず筆者のVRに対する距離はそんな感じだった。

 ところが、配信トークイベントで、アダルトVRを精力的に撮っているジーニアス膝監督と対談をすることになった。
https://twitcasting.tv/kemta/shopcart/46094twitcasting.tv

 そうなると事前に少しは勉強をしておかなくてはならない。そういえば昨年の秋にOculus Quest 2という(VR業界では)話題の機種が出たんだっけと思い出した。37180円とちょい高価ではあるが、せっかくの機会だから買ってしまおう。VRに限らず、これで普通の映画を見るのも迫力があっていいなんて話も聞いたし。
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https://amzn.to/35FbJwGamzn.to

 というわけで新年そうそう買ったのだ、Oculus Quest 2。基本的にはゴーグルと右手用、左手用のコントローラーが二個のセットだ。ゴーグルをかぶってコントローラーを持つと、視界にパネルなどが出てきて、手元から伸びるビームをコントローラーで動かすことでボタンやキーボードで操作や入力をしていく仕組みだ。スマホ用ゴーグルのように、いちいちゴーグルを外してスマホを操作して、またゴーグルをかぶって、というのに比べるとかなり楽だし、没入感も削がれない。
 Facebookのアカウントが必要だったり、WiFiの設定が上手くいかなかったりと、最初は少々手間取ったところもあったが、しばらくいじっていると直感的にわかるようになってきた。

 アダルトVRは現状ではFANZAの配信が主流だ。ダウンロードした「DMM VR動画プレーヤーアプリ」で観るわけだが、アプリ内での購入はできないので、PCやスマホでまずソフトを購入しておく必要がある。とりあえず対談相手のジーニアス膝監督の作品を見ておこう。調べると200本近いVR作品を撮っている。VRの進化が知りたいので、最新作の『【VR】地方温泉街の風俗夜遊びマニュアル。裏風俗宿で性交接待。一泊二食、人妻付。八乃つばさ』(KMP)をセレクト。通常映像と高画質のHQ版がある。300円ほど違うのだが、ここはHQ版で行こう。それでも1304円とDVDよりは安いわけだし。

 さて再びOculus Quest 2をかぶって、『【VR】地方温泉街の風俗夜遊びマニュアル…』を再生。謎の高級風俗店で八乃つばさとプレイを体験するというものなのだが、おお、これは……と息を飲んだ。八乃つばさがやたらと密着してくるのだが、すぐ近くに彼女がいるというリアルさが強烈なのだ。抱きついてきて耳元で囁いたり、キスしたり。あんまり接近してくると、3Dが崩れてしまったり近すぎて何が見えているのかわからなくなってしまうのだが、バイノーラル録音による生々しい音声でその辺は脳内補完できる。実際にキスする時だって、目をつぶっているわけだし、その辺は問題ない。

 いや、しかし、このリアル感はすごい。HQ画質というのも大きいだろう。そもそもAVに高画質はあまり必要ないのではと思っているのだが、ことVRに関しては高画質は必須だ。後で、以前に購入したSD画質のVR作品も見てみたのだが、リアル感が全く違う。こっちはあくまでも「映像」を見ているという感じ。HQ画質だと、脳がしばしば現実と勘違いしてしまうレベルなのだ。話が進んで来て、八乃つばさに愛撫されたり、セックスをしたりという段階になると、触ったり触られたりしているのに実際に感触がないことが不自然に思える。さらには、時折感触があるようにすら思えてくる。事故などで失った腕や脚に痛みを感じるという「幻肢痛」に近い感覚すら生まれるのだ。
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【VR】地方温泉街の風俗夜遊びマニュアル。裏風俗宿で性交接待。一泊二食、人妻付。八乃つばさ』(KMP)


 なるほど、これは面白い。VRにハマっている友人にオススメ作品を教えてもらう。「これはほんとうに二桁抜いた」と彼が薦めてくれたのが、SODクリエイト『【VR】【雪山遭難VR】このままじゃ凍死確実!裸で抱き合ってカラダを温め合い、至近距離で見つめられながら密着摩擦で生性器をコスり合った直後に極限状態のサバイバルSEX 小倉由菜』。タイトル通りに、雪山で遭難してテントの中で後輩の女の子と二人っきりになるという設定。自分は吹雪に揺れるテントの中でずっと寝そべっているだけで、小倉由菜が色々と甘えてくる。服が濡れちゃったからと全裸になり、毛布にくるまって体を温め合うことになる。冬山のテントの中というシチュエーションも面白く、ぐいぐいとこの世界に引き込まれてしまう。まぁ、とにかく小倉由菜が可愛い。接近してくる顔を、ついジッと眺めてしまう。
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【VR】【雪山遭難VR】このままじゃ凍死確実!裸で抱き合ってカラダを温め合い、至近距離で見つめられながら密着摩擦で生性器をコスり合った直後に極限状態のサバイバルSEX 小倉由菜』


 ジーニアス膝監督作品でオススメを?と知人に聞いて薦められたのが『【VR】好きになる以外考えられないほど天才的に可愛い年下幼馴染。本気汗×本気汁の孕ませ中出しSEX 石原希望』(KMP)。これも強力だった。幼馴染の女の子が「実はずっと好きだった」と迫ってくるというもの。照れてふざけながらも、グイグイと甘えてくる石原希望の演技力が神かかっている。関西弁というのもたまらない。可愛い女の子にここまで好かれたら男冥利に尽きるよなぁ、というごく一部の恵まれた男性の気分を味わうことが出来る。
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『【VR】好きになる以外考えられないほど天才的に可愛い年下幼馴染。本気汗×本気汁の孕ませ中出しSEX 石原希望』(KMP)

 いずれの作品も、セックス自体よりも、そこに至るまでのイチャイチャした行為の方が興奮させてくれるというのが興味深い。

 スマホ利用の簡易型ゴーグルでVRを判断しちゃいけないな、と改めて思った。安くて手軽だからとスマホゴーグルが普及してしまったのは、アダルトVRにとって不幸だったのではないだろうか。

 今、VRの世界では、KMPとSODの2メーカーの評価が非常に高い。特にKMP作品は、ハズレがないとまで定評がある。当然、セールスも好調なようだ。
 ここ10年以上、AV業界はエスワンムーディーズアイデアポケット、マドンナなどのメーカーを擁するWILLグループの一強となっていた。次いで、SODグループやプレステージというところか。00年代初頭にはKMPも大手メーカーとして、その一角を担っていた。ふんだんに予算をかけた大作なども連発し、ブイブイ言わせていたという印象がある。しかし、ここ10年くらいはすっかり元気がなくなり、存在感も薄れてしまっていた。

 それがVRで息を吹き返したのだ。VRブームの初期にヒット作を連発し、制作にも力を入れていったためにクオリティも上がっていき、VRユーザーの信頼を得たのだ。
 またSODも、とある事情によりスタートではつまずいてしまったものの、着実にVRでの地位を築いていった。特にユニークなアプローチの作品が多いのは、さすがSOD、というか、ここのところ以前ほど「変な」作品を作らなくなってきていて、個人的には少しがっかりしていたSODがVRで往年のカラーを取り戻しつつある。

 VRは、未だに発展途上のジャンルだ。ハード的な部分も撮り方やアプローチなどのソフト的な部分も、試行錯誤が続き日々進化を続けている。通常のAVに比べてVRは若い監督が多いということもあるかもしれない。
 アングルをあまり動かせないため、受動的なシチュエーションに限定せざろうえないなど、制限も多いのだが、その分その条件下でどう戦っていくのか、アイディアと実験精神が勝負となっている。
 
 硬直状態になり行き詰まり感のあったAV業界が、ここで少し面白くなってきたんじゃないだろうか、という気がしているのだ。ちょっと90年代初頭にカンパニー松尾バクシーシ山下平野勝之、ゴールドマンらが出現し、AVに革命を起こした時代、または90年代末から00年代にかけてのインディーズビデオブームの頃のような熱気も感じられる。作品次第では、小規模なメーカーが一気に伸びるような状況もあり得るのだ。

 ただ、アダルトVRは、AVとは違い、むしろ風俗に近いものなのではないか、と思ったりもしている。そして様々な理由によりAVとアダルトVRが置き換わるということは今後もないだろう。これは全く別のジャンルなのだ。

 というような話をこってり二時間、ジーニアス膝監督と語り合った。VRが置かれている状況分析から、VR撮影現場の苦労話まで。アダルトVRが好きな人だけではなく、アダルトメディア、いやメディアの話に興味がある人には楽しく見れるのではないだろうか。

 アーカイブは二週間観ることが出来るので、ぜひ!
https://twitcasting.tv/kemta/shopcart/46094twitcasting.tv

「帰ってきたブラックパックナイト」やります!

 2014年の8月に高円寺パンディットで僕が行った「ブラックパックナイト」が5年ぶりに帰ってきます! 
 ブラックパックとは80年代半ばに、一部で話題を呼んだ無審査AVで、その名の通り黒い紙の箱に包まれた怪しげなビデオです。その内容は極めて過激。いや、過激というより意味不明。方向を間違えてるとしか思えない変態プレイの数々。わずか2年で姿を消したブラックパックはAVの歴史の中でも語られることのない、いわば黒歴史です。

詳しくはこちらを御覧ください
rioysd.hateblo.jp

ところが最近になって、こんなイベントがあったことを知ったマニアの人から連絡があり、一緒に第二回をやることになってしまったのです(笑)。
 そのマニアの人はryoさんといい、ブラックパックを始めとして、SMやスカトロなどのマニアックなAVを大量にコレクションしておりまして、その膨大な量には僕も驚かされました。

そんなわけで、今回はryoさんのコレクションを中心に上映いたします。黎明期のAVや裏ビデオなんかは、結構ネット配信で見ることができるのですが、このブラックパックというものは、ほとんど目にする機会はないと思いますし、VHSの中古でも出まわることは、まず無いですね。そういう意味では、かなり貴重な映像です。そして、今回のセレクトはryoさんの嗜好を反映しまして、かなりハード! 繊細な神経の方は、遠慮していただいた方がいいかもしれません(笑)。

アシスタントとして当日はブラックパック当時はまだ生まれてなかった、八ッ橋さい子さんも出演してもらうんだけど、さい子さん、大丈夫かなー。

だいたいこんな感じの作品を上映します。
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というわけで、覚悟を決めていらして下さい!

あ、当日は特製カレーも販売します。ぜひカレーを食べつつご覧下さい!(笑)

〜AV史から封印された幻のインディーズビデオ〜「帰ってきたブラックパックナイト」<18禁!!>8月27日(火) 高円寺パンディット 
【出演】・安田理央(ライター、アダルトメディア研究家)・ryo(SM、スカトロ系AVコレクター)
【ゲスト:聞き役】・八ツ橋さい子(AV女優、ブラックパック初心者)
開場19:00 開演19:30 前売¥2000(飲食代別)当日¥2500(飲食代別)


イベント詳細はこちら
pundit.jp

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