「生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術」(泡坂妻夫 新潮文庫)
表紙には大きく「取り扱い注意」の札の絵が書かれ、「『消える短編小説』入ってます!」の文字。そして帯には、「お願い。はじめは各頁を切り開かず、必ず袋とじのままお読み下さい。」のコピー。
そう、この本は、16ページごとに袋とじにされていて、そのまま読むと25ページの短編小説。しかし、袋とじを切り開くと、まったく別の194ページの長編小説になるという凝った仕掛けになっているんですね。
作者はマジシャンとしても活躍した推理作家・泡坂妻夫。本作でもマジックが重要なテーマとして使われています。そしてこの小説自体が、マジックのような構造を持っているんですね。
短編小説として使われる25ページが、長編小説の一部として取り込まれると、その文章が全く別の意味を持ち、元のストーリーはすっかり消えてしまう。なるほど、これは確かに「消える短編小説」です。なんという緻密な計算の上に書かれているのでしょうか。