ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

「文筆生活の現場」石井政之・編

性欲だってあるしお金も欲しい(C)近田春夫

 ライターという仕事に関する本が好きです。ライター入門の類は、見かけるとすぐに買ってしまいます。ライターという職業は、非常にケース・バイ・ケースな性質がありまして、その仕事内容も形態も個人個人でえらく違うんですね。だから同業者がどんなスタイルで仕事をしているのか、気になるのですよ。
 というわけで、この本。「文筆生活の現場―ライフワークとしてのノンフィクション」石井政之編/中央公論新社中公新書ラクレ)も当然、見つけて即買いですよ。佐野眞一武田徹藤井誠二江川紹子大泉実成、斉藤貴男など12人のノンフィクションライターが、なぜライターになったのか、どのように仕事をしているのかを語った本です。オビには「カネか自由か 生活と志のギャップを赤裸々に綴る」と書かれています。

 大変面白く読みました。読みましたが、考えさせられましたね。まず正直な感想は「ああ、僕はノンフィクションライターじゃなくて、本当によかった」ということです。とにかくですね、ほとんど全員の書き手が口を揃えて言うのが「カネにならない」ということです。そりゃ、カネになりませんよ、ノンフィクション。コツコツと取材して一冊書いて、一万部いく本なんて滅多にない。話題になった佐野眞一の「巨怪伝」も二年間かけて書いて二万部いったかどうか、というんですね。印税10%だと、一万部の本を書いたとして百五十万円くらい。つまり二年かけて書いて二万部なら年収百五十万円。年収三百万円時代どころじゃないですよ。しかも、それはあくまでも、ほんの一握りの売れた本。今、ノンフィクションなら三千〜五千部というのがいいところ。つまり一冊書いて45万〜75万円。たぶん、取材経費の方がはるかに上回るでしょうね。
 実際には単行本の書き下ろしだけではなくて、雑誌の連載なんかもあるわけですが、ノンフィクションとなると、それほど量産も利かないわけで、破格の原稿料ということが無い限り、あまり稼ぎにはならないわけです。あとは講演とか講師とかですか。これは結構実入りがいいらしいですね。
 
 いや、ホント、読んでると切なくなってきます。大泉実成の「売り上げ三一一万二二六三円をめぐる赤裸々な自問自答」なんか泣けて泣けて。大泉実成といえば、エホバの証人のルポなんかで、けっこう知られたノンフィクションライターですよ。それが売り上げ三百万。これ、あくまでも売り上げですよ。ここから経費を引いたらどうなるんでしょう。大泉氏は家に生活費を月二十万入れる約束をしてるのですが、実際には十万しか入れられず残りは妻に「借りて」いるそうです。いやいや、そもそも子供がいるなんてのが、ノンフィクションライターとしてはダメらしいです。もし結婚するなら働いている女性と、といっている人もいます。なにしろ永江朗が家を買ったとか、日垣隆が二人の子供を大学に通わせているというのが、驚かれる世界ですからね。

 ジャーナリストやノンフィクションライターというのは生き方なのです。金銭よりも大事なものがあるから、彼らは書くのです。ストイックな世界です。損得勘定ヌキで、困難な取材に立ち向かってくれる彼らがいるからこそ、僕らは色々な情報を得ることが出来るのです。メジャーなメディアが取りこぼした、あるいは意図的に隠蔽している事実を知ることが出来るのです。彼らがいなかったら、僕らの世界はどれだけつまらなく、どれだけヤバいことでしょう。

 でもねぇ、やっぱり、ストイックすぎるというのも問題があるような気がしちゃうんですよ。だって、お金を払って本を買う読者はもっと欲望まみれの普通の人たちなんですから。今、書き手と読み手の間に、意識のズレが出てきちゃってるんじゃないかと思うんです。問題意識の高い人たちが書き、問題意識の高い人が読む。そんな構図がどんどん間口を狭めちゃうんじゃないかと。
 いや、ほら、僕なんかはライターといっても、エロなんてジャンルの人間ですから、同じ土俵で語られると向こうもイヤかもしれませんが(笑)、特に欲望というものを大事に考えてるんですね。エロってのは、欲望=性欲が全てですから。いい女の裸がみたい、いい女とやりたい、そこに尽きちゃう。仕事でたくさんのハダカを見てるわけですが、自分が麻痺しちゃわないように、ということに気をつけています。できるだけ読者と同じ視点でありたいんです。僕が子供の頃の性的トラウマである永井豪エッチマンガにこだわることとか、刈田萬蔵が最近セックス断ち(ホントか?)してるのとかも、性的パワーが最も強い童貞マインドをキープするためなのですよ。 
 そんな風に考えちゃうのは、僕がエロライターだからなのかなぁ。でも、やっぱ、稼ぎたいっすよ。いい仕事したら、それなりにお金もらいたいですよ。カネのためにイヤなことをやるのはゴメンだけど、やりたいことをやって、お金もいっぱい、これが理想ですよ。なんとか、みんながまっとうな報酬を受け取れるようなシステムってできないものかなぁ。ま、今はそれどころじゃなく、更に本格的に悪くなっていこうという状況なんですけどね。印税が下げられるなんて動きもあるし。

 よく思うんですけどね、自分が好きなこと、本当にやりたいことが、たまたま商売になるものだった人は幸せですよね。僕なんか、まさにそうなんですが。ああ、エロが好きな人間に生まれて、本当によかった。神様ありがとう。

「文筆生活の現場」の著者たちが展開する活動の情報のblog
http://www4.diary.ne.jp/user/450816/

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