ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

レンタルAVの見た夢

 カンパニー松尾らが設立したインディペンデントレーベル「ハマジ
ム」
*1の最新作、「UNDER COVER JAPAN」を見た。2003年12月24日のクリスマスイブから2004年1月1日元旦までの日本を三人の監督が同時に撮影したというオムニバス形式のドキュメンタリーだ。平野勝之は、吹雪が荒れ狂う日本最北端の地をカメラ片手に自転車で走破。カンパニー松尾は東京でAVギャルとクリスマスを過ごしたり、応募してきた素人女性を次々にハメ撮り。そして映画監督である真喜屋力は沖縄に帰省したついでに、実家の近所の寂れたピンク映画館でブラブラする日々を撮影する。この作品は18禁のAVでありながら、平野パートと真喜屋パートには、全く女性が登場しない。当然、セックスシーンも皆無だ(真喜屋パートでは映画館で流れるピンク映画がチラリと映るが)。
 カンパニー松尾バクシーシ山下平野勝之、ゴールドマンといった監督たちが相次いで登場した1990年前後、AVシーンには音楽シーンにパンクが登場した時と同等の革命が起きた。彼らが発表した作品は従来の「エロビデオ」の枠を超えてAVの可能性をグイグイと押し広げていった。
「ああ、こんなことまでAVで出来るんだ」「AVはこんなことまでやっていいんだ」
 僕はAVというメディアの持つ可能性のすごさに感動し、懸命に彼らの動向を追っかけた。追っかけすぎて、自分もエロ業界に引き込まれてしまった。
 それから時は流れてAV業界もずいぶん変貌した。松尾ら世代の監督も大ベテランと呼ばれる年齢となり、彼らの梁山泊的存在だったメーカーV&Rプランニングも事実上活動を停止してしまった*2AVといえばビデ倫審査を受けたレンタル用ビデオを意味したのが、今はビデ倫未審査*3のセル用ビデオが主流となり、各メーカーの勢力地図も大きく変化した。かつては宇宙企画、VIP、芳友舎、KUKI、ジャパンホームビデオの大手5社と村西とおるクリスタル映像が圧倒的なシェアを誇っていたが、現在ではレンタルではKMP、セルではムーディーズという資本力のあるメーカーの二強時代となっている。もともとセルAVは、極小メーカーがビデ倫の審査を受けずにマニアショップ販売と通販のみで細々と売っていたため*4インディーズと呼ばれていたのだが、現在ではレンタルAVメーカーよりも大規模なセルAVメーカーも多い。今でも慣例的にセルビデオをインディーズと呼んでいるが、その名称はすでにふさわしくないのだ。90年代初頭のインディーズAV黎明期には、レンタルAVメーカーが到底作ることのできない、いや作る気のないようなコアユーザー向けのマニアックでフェティッシュな作品が多かったものだが、現在のセルAVは実に直接的な「エロビデオ」が主流である。実用本位。販売本数がそのまま利益に直結するセル市場はシビアだ。ユーザーのニーズを作品に明確に反映しなければならない。そこがレンタルAVとの大きな違いなのだ。実はレンタルAVにおいての「お客様」はユーザーではない。問屋であり、レンタルショップなのだ。誤解を恐れずに言い切ってしまえば作品の質よりも、問屋やショップとの関係が重要視される世界だ。現在、レンタルAVがセルAVの勢いに完全に飲まれてしまっているのは、そうしたぬるま湯のような関係の上に成り立った制作体勢に問題があるのだろう。しかし、だからこそかつてAVは可能性を拡げることができたともいえる。「ああ、こんなことまでAVで出来るんだ」と僕に思わせたAVは、その余裕の中だから生まれたものだったのだ。
 ハマジムの作品に話を戻そう。「UNDER COVER JAPAN」は面白かった。いつものようにハメ撮りに精を出す松尾パートも相変わらずのクオリティではあったが、作品としての力は平野パートが圧倒的だった。99年の劇場作品「白THE WHITE」同様にたった一人で極寒の北海道自転車ツアー。生命の危機を感じるほどの極限の旅を自らカメラに収めていく。いや、ハードなことやってるのはわかるけど、内容としちゃあ地味だよなぁ、たぶん早送りしちゃうよな、なんて思いながら見ていたのだが、その圧倒的な映像の迫力に、指は一度もリモコンの早送りボタンに伸びることはなかった。久々に平野勝之のすごさを思い知らされた。一方、真喜屋パートはその対極。まさに帰省のついでに撮っただけの、ぬるい映像。沖縄の実家に帰ってぼんやりと散歩して、お客のほとんど来ないポルノ映画館で支配人とダラダラと雑談する。しかし、そのぬるさ、ゆるさが心地よい。これまた、ボーっと最後まで早送り無しで見てしまった。退屈きわまりない映像のはずなのに。
「UNDER COVER JAPAN」はジャケットも大変かっこいい。EPレコードサイズで統一されたハマジムのジャケットは、どれもこれもかっこいいのだ。飾っておきたくなるほどだ。つまり手元に置いておきたい商品ということだ。
 しかし、正直な話、4830円という金額を払って買うかというと、そこは難しいのだ。僕は、ハマジムの広報の宮下さん(おなじみ元V&Rのスチャラカ宮下さん!)からサンプルとしていただいたから、こうして見て「面白い!」と言うことが出来る。しかし、自腹を切ってこれを買うだろうか。ハマジムには頑張って欲しいから買うかもしれない。でもそれはご祝儀的な意味合いが強くなるだろう。一ユーザーとして考えれば、4830円という金額を払うのは躊躇してしまう。
 いや、問題は価格ではないな。今のセルAVが2〜3千円台という相場を考えると、ハマジム作品が4千円台というのは確かに高い。でも、ずば抜けて高いわけではない。風俗に行けば一回で一万円以上だ。なんだかんだ言ってもエロに対してはサイフのヒモは緩くなるものだ。
 そう、エロに対しては。「UNDER COVER JAPAN」の面白さはエロ以外の部分にあった。「ああ、こんなことまでAVで出来るんだ」の「こんなことまで」の部分。つまりAVの枠からはみ出した部分。でも、人間ってそこのところにはサイフのヒモはきつくなってしまう。その部分で闘おうとするならば、自主制作映画の人々のように持ち出し覚悟、儲けは考えないという姿勢で考えなくてはならないのが現実だろう。
 やはりハマジム作品の販売状況は、よくないようだ。と、いうよりかなり悪いらしい。今年は新規作品のリリースは凍結されてしまうとか。ハマジム自体は制作会社としては精力的に活動しているのだが、インディーズメーカーとしてのハマジムの挑戦は、事実上失敗したということになる。クリエイターが作りたいものを作ればいいものが出来る…。ハマジムはそんな理想の元につくられたメーカーだろう。リリースされた作品の質は高い。ああ、いいAVを見たな、AVってのは色々な可能性があるメディアなんだな、という、90年代初頭に僕が感じたあの感動を思い起こさせてくれる。でも…、あの当時でも僕はこれらの作品が4800円だったら買ってただろうか…。レンタル300円だからこそ、僕は彼らの作品を追いかけられたのではないか。いや、本当のことを言えば、僕はその頃すでに業界の端っこにもぐりこんでいたから、ほとんどの作品をサンプルで見ていた。つまり、ちゃんとしたお客さんではなかったのだ。
 カンパニー松尾ファン、バクシーシ山下ファンと自称する人たちは、いっぱいいる。特に出版業界には多い。でも、そのうちのどれくらいの人がちゃんとお金を出して松尾作品を借りたことがあるのだろうか。そして、何人がハマジムの作品を購入したのだろうか。
 ということは、「ああ、こんなことまでAVで出来るんだ」という僕の感動の価値は、結局のところ無料か、せいぜい300円程度のものでしかなかったのかな、と、ふと思ってしまうのだ。
 ま、それは極端な言い方かもしれないが、AVの枠をはみ出したAVの面白さというのは一泊二日300円のレンタルビデオというシステムの中だからこそ生まれたという考え方は、あながち間違ってはいないと思う。バクシーシ山下らが、近年はCS放送の番組を撮る方向にシフトしていったのも、同じ理由だろう。
 実用品としてのAVなら、何度も見られるので4800円でも惜しくはない。しかし、作品として面白いと思うAVは一度見れば十分というのが正直なところだ。そうなると4800円は厳しい。いや、2000円だとしても同じかもしれない。よく高い高いと言われる映画の入場料だって2000円しないのだから。
「ああ、こんなことまでAVで出来るんだ」というタイプのAVは、レンタルAVの終焉と共に消えていくのかもしれない。消えなくとも、AVの台頭によって時代の隅っこへと追いやられてしまったピンク映画のような存在になるのかもしれない。
「UNDER COVER JAPAN」を見て、そんなことを考えてしまった。…作品自体はとても面白かったのに、なんでこんなネガティブな文章書いてんだ、おれ。
 
 
 

*1:正式な社名は有限会社ハマジム。2003年5月設立。代表取締役・浜田一喜。エロスチールカメラマン・浜田一喜とハメ撮りAV監督・カンパニー松尾を中心とするエロ写真の撮影や、アダルトビデオの制作・発売をする会社。社名の由来は、前身になった浜田写真事務所の略称"ハマジム"をそのまま登記したもの。以上ハマジム公式サイトより。

*2:制作部はV&Rプロダクツとして独立。本家の新作リリースは停止している。

*3:大半はソフ倫メディ倫といった別団体の審査を受けている。

*4:90年前後に大陸書房が書店ルートで低価格AVを販売していたこともあったが、92年に同社は倒産した。

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