ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

エロ雑誌の現状

rioysd2006-06-18
 エロ雑誌が危ない。そんな声が聞こえて来たのは、いつ頃からだろうか。僕がフリーライターとしてエロ雑誌の編集部に出入りするようになったのは90年代の半ばだったが、その頃はまだまだ景気がよかったような印象がある。自分で書いた原稿を調べてみると2000年に「スコラ」11月号で「エロが危ない!」という特集記事を書いていた。翌年の「SPA!」の1月17日号でも「エッチ産業存亡の危機」という特集を書いている。おそらく、この時期には、僕は相当危機感を感じていたのだと思う。この二つの特集の中でも僕は「特にエロ雑誌が厳しい」と書いている。
 90年半ばから2000年への間の5年間で、エロ雑誌は失速したということか。その5年に何があったかと考えれば、やはりインターネットの台頭だろう。95年前後は、僕も「インターネットで無修正画像が見放題!」なんて能天気な原稿を書き散らしていたっけ。
 もちろんそれ以外にも社会全体の景気の低迷に、99年に施行された児童ポルノ法や、コンビニ規制の強化などの影響もあった。90年代初頭から狂い咲いたヘアヌードブームの熱気は既に冷め、エロ雑誌を取り巻く環境は急激に厳しいものとなっていたのだ。
 そして、それから更に5年。現在のエロ雑誌は、既に瀕死の状態だと言える。とりあえず、ここ最近のエロ雑誌業界の動きを振り返ってみよう。
 まず、大きな動きとしては一昨年に施行された「青少年保護育成条例」による成人雑誌のテープどめが、昨年11月から一ヶ所から二ヶ所へと変更された。強引にめくれば何とか中を覗けた一ヶ所どめとは違い、二ヶ所どめとなると、中身をチェックすることは、ほとんど不可能だ。コンビニでのエロ雑誌の立ち読みは、これで事実上不可能となった。最初にテープどめが行われた時には、中が見られないことによって興味を持って買ってみた読者が増えるという「テープどめ特需」があり、売り上げが伸びた雑誌も多かったのだが、それも一時的な現象にすぎず、今回の二ヶ所どめでは二度目の恩恵は起きなかったようだ。
 老舗エロ雑誌のリニューアルも相次いだ。昨年末から「ウレッコ」「スーパー写真塾」「S&Mスナイパー」「マニア倶楽部」と20年の歴史を持つ老舗雑誌が次々とリニューアルしたのだ。「S&Mスナイパー」以外の三誌は、コンセプトを変え、連載陣も総入れ替えし、全く別の雑誌へと変わってしまったといってもいいだろう。事実上の休刊であり、名前だけが新雑誌に引き継がれたわけだ。
 これら老舗雑誌以外の新しめの雑誌にもリニューアルの嵐は吹き荒れている。これらの雑誌に共通する変更点がある。まず、モノクロページが減り、ほとんどがカラーページとなる。これは、いわゆる読み物ページが減り、写真で見せるページが増えたということだ。連載コラム的なものは、エロ雑誌からどんどん駆逐されているのである。
 そして付録にDVDが付く。コンビニのエロ雑誌コーナーを見ると、約半数の雑誌にDVD付きになっている。今や、DVDが付いていないエロ雑誌の方が少数派なのだと言ってもいいかもしれない。
 さて、どうしてこうも付録DVDが増えたのか。読者の立場から考えれば、以前に比べれば安くなったとは言えショップで買えば3千円はするDVDが付録でついてて、千円以下。しかも雑誌だけでも700円くらいしていたのに、DVD付きになっても100円しか値上げされていない。これはお得だと思うだろう。購入意欲もわくというものだ。だから売れる。ああ、DVDをつけてよかった。読者も喜ぶ。出版社も喜ぶ。万々歳。
 …と、いけばいいのだが、実際にはそれほど売上が伸びるわけでも無いらしい。落ちっぱなしだった売上が、少々持ち直す程度。それも、一度DVDをつけた雑誌は、付録を止めた途端にガクっと売上が落ちてしまうそうだ。使い始めたら、もう止めることができないなんて、まるで覚醒剤のようである。
 しかし、どうして、この値段でDVDがつけられるのかと言えば、実はDVDというのは、かなり安いコストで作ることができるからなのだ。プレスだけなら一枚あたり50円以下である。下手に増ページした場合の印刷費よりも安いのだ。
 僕は昨年、ダリオレコードというインディペンデント・レーベルを立ち上げた。レコードと名づけてはいるが、レコードもCDも出す予定はなく、第一弾は撮り下ろしのDVD、第二弾として漫画家の古屋兎丸氏撮影の写真集を作った。内容の制作費は別として、プレス代・印刷代だけの話をすればDVDは1000枚作って10万円ちょっと(パッケージ込み)、一方写真集は1000部で80万円以上かかってしまった。まぁ、写真集に関してはA3版という超大型サイズで紙もいいものを使ったから、そんな値段になってしまったのだが、もしA4版で作ったとしても半額にはならない。
 DVDも写真集も定価は同じ2500円にした。ここで重要なのは、DVDで2500円は安く感じるのに、写真集で2500円は高いと思ってしまうことだ。実際は写真集の方が8倍もコストがかかっているのに、だ。
 この例からもわかるように、DVDは高いというイメージがあるために、雑誌の付録にDVDをつけるというのは実際のコスト以上に値ごろ感を出せるのだ。増ページしたからといって、値上げすることは難しいが、DVDを付ければ100円以上の値上げも納得してもらえる。出版社側にとっては美味しい話である。
 いや、これはあくまでもプレス代・印刷代だけの計算だ。動かないエロ本と、動画では中身の制作費が違う。グラビアとビデオではモデルのギャラだって変わるだろう。編集だって、何倍も手間がかかるはずだ。
 そう、かかるはずなのだが、あちこちの編集部で聞いたところによると、ほとんどの雑誌ではDVDをつけたからといって制作費は変わらないらしいのだ。雑誌だけ作っている時と同じ制作費でDVDまで作れ。これはずいぶんと無茶な話だが、無茶を承知で作らなければならないのが仕事のつらいところだ。
 かくして、いかにDVDを安く作るかが腕の見せ所になる。しかもDVDの場合は収録時間の長さをうたわないとユーザーにはアピールできない。表紙に「4時間収録!」とか「240分!」と大書きしたい。4時間を埋めるコンテンツを実質上制作費ナシで作らなくてはならないのだ。ご苦労様としか言いようがない。それでも何とかしてしまうのが、日本のエロ本編集者の素晴らしいところだ。
 単体女優のグラビアを撮るついでにメイキングやインタビュー、簡単なイメージムービーを撮らせてもらう。グラビア撮影分のギャラにちょっと上乗せすればOKだ。DVD用にハメ撮りをするのもいい。これなら立派な撮り下ろし映像だ。もちろん同時に写真も撮ったり、あるいは撮影したビデオからキャプチャーした画面で雑誌のページも構成する。どうせ誌面でもハメ撮りページは撮るつもりだったのだから、実は予算的には同じことなのだ。ムービー撮影だと、写真に比べてモデルのギャラが多少アップするのだが、何倍にもなるわけではない。ほーら、少しの出費でDVD用のハメ撮りムービーと、誌面用のハメ撮り写真が両方制作できた。
 後はAVメーカーからサンプルムービーをもらってきて収録させてもらおう。これで、かなり尺はかせげるし、ハダカの数も増える。裏ビデオにモザイクをかけたものを、そのまま収録してしまうこともある。著作権的に文句はつけてこないだろうということだ。
 こうやって行けば、あら不思議。ほとんど制作費をかけずにDVD4時間分のコンテンツを作ることができてしまった。
 かつて藤木TDC氏が「AV誌今昔物語」(「エロ本のほん」収録 ワニマガジン社 1997年)という原稿で「いかに予算をかけずに、雑誌作りするかが、エロ本における伝統的な編集哲学であることに間違いない」と看破していた。「(前略)出版社、編集者にとってはイイ女のヌード写真を数多く『タダ』で調達できた雑誌ことが『いいエロ本』なのである」と。そう考えれば、このタダでDVDを作るという流れも、伝統に即したものだと言えるかもしれない。
 しかし、やはりそんな後ろ向きな姿勢で作られたDVDが面白いだろうか。いくら値頃感があるといっても、すぐに読者に見放されるのではないだろうか。
 こう書いていくと僕は付録DVDに対して否定的な立場をとっていると思われるかもしれないが、そうではない。むしろ、雑誌仕事と同時にAV撮影の仕事も平行してやってきた僕にとっては、雑誌+DVDという組み合わせは大変魅力的に見える。特に、近年のAVが実用性を追求し、かつてのAVが持っていた雑多な面白さを排除する方向に向かっている状況下において、そのはみ出した部分の受け皿となるのが雑誌の付録のDVDなのではないかとも考えているのだ。純粋なヌキツール制作者に特化しつつあるAV制作のプロたちとは違った切り口のムービーを、編集者ならではの感性で制作できるならば、かなり面白いことになるのではないか。
 DVDをつけないと売れないから、仕方なくDVDをつける、という消極的な姿勢ではなく、新しいエロ雑誌の可能性としてDVDを作る。あくまでもAVとは違う切り口でDVDを作る。それがエロ雑誌復活の方法のひとつではないかと思うのだ。それは紙媒体としての敗北を認めるということにもつながってしまうのだけれど。
 僕は、エロ雑誌によって色々なものを学び、今でもオナニーする時は写真か文章がネタという平面派である。AVをネタに使うことは少なく、エロ雑誌には強い愛着がある。
 そんな僕でも、今はPCのモニターで写真やら官能小説やらを読んでオナニーすることにすっかり慣れちゃっている。一般ユーザーなら、なおさらだろう。
 いつまでも紙媒体にこだわっているわけにも行かないだろうなというのが、僕の正直な感想だ。じゃあ、どうすればいいのか。これからこの連載で、「エロ本」再生への可能性を色々考えていきたいと思う。

●「オレンジ通信」(東京三世社)2006年6月号より。「エロ本再生」という連載の第一回の原稿。とりあえずエロ本業界が今、ものすごくヤバイ状態だということを、意外に一般の人は知らないようなので再録してみた。一部、加筆修正。あと、カタイ記事なので写真は単なるサービスのイメージカット(笑)。僕の撮影です。

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