ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

「地を這う魚 ひでおの青春日記」(吾妻ひでお 角川書店)

 2005年から「新現実」「コミックチャージ」と雑誌を変えながら掲載されてきた吾妻ひでおのデビュー時代を描いた自伝的作品「地を這う魚」が描き下ろしを加えて単行本化されました。
 1968年、漫画家を目指して上京した若き吾妻ひでおと仲間たちの青春スケッチ。いわば吾妻版「まんが道」、いや、どちらかというと「漫画家残酷物語」に近いか。
 しかし、単なるノスタルジックな青春モノには終わらせないのが吾妻ひでお。この世界では、吾妻本人と若い女性以外はすべて馬やワニやロボットなどの非人間として描かれ(なぜか、通行人などその他扱いのキャラは人間だったりする)、空中や地面には魚や訳のわからない異形の生物がウロウロしているのです。まるで悪夢のようなトリップワールド。その中で、悶々とした日々を送る漫画家志望の吾妻青年。
 シュールで切なく虚無的な唯一無二の世界。「不条理日記」〜「海から来た機械」のムードに近いと言えば近いけれど、もっと深みがあります。画も素晴らしい。吾妻ひでおは、新たな黄金期を迎えようとしているのではないでしょうか?
 これ、ジブリがアニメ化したら、すごくハマるような気がします。

僕はもっとも好きな漫画が「まんが道」というくらいで漫画家漫画は大好きなのですが、どうしてこうも、漫画家漫画は死の匂いに満ちているのでしょうか?
 古典で言えば「まんが道」は登場する実在の人物のほとんどが死んでいますし、「漫画家残酷物語」もキャラクターが死ぬ話ばかり。最近では小林まことの傑作「青春少年マガジン1978〜1983」も主人公以外の主要キャラ2人の死で幕を閉じます。この「地を這う魚」も直接的には死を描いてはいませんが、その匂いは作品中に満ちています。
 まぁ、それほど漫画家という仕事が過酷なものというわけなんでしょうけど。「バクマン」はどうなるんだろう…。

 あと長田要によるコミック版「花と蛇」4巻も出ました。これで完結。後半は大分駆け足になっちゃってるけど、これも原作の終わり無き悪夢のような世界のムードを見事に描いていると思いますね。ちょっと淡々としすぎてるけど、「花と蛇」のビジュアライズ化では、一番いいんじゃないかなぁ。

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