ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

さる業界の女たち 興味本位の女

「結局、池袋の『S』に入りましたー。ポルカさん、遊びに来てくださいねっ」
ポルカの携帯にミキからそんなメールが届いた。すぐに返事のメールを返す。
「お店での名前は何になったの? なんなら今日にでも遊びに行っちゃうよ」
 ミキとメールのやり取りをするようになったのは一週間ほど前だが、まだ実際には会ったことはない。ポルカがとある週刊誌に風俗業界に詳しいライターとして顔写真入りで取材された際に、プロフィール欄にメールアドレスを掲載してもらったのだが、その雑誌を読んだミキからメールが来た。
「風俗に興味がある女子大生です。ちょっと働いてみたいと思っているのですが、安全なお店を紹介してもらえませんか?」
ポルカは面白がって、風俗業界の裏事情や、働きやすそうな店をいくつか教えてあげた。もちろん下心だってあってのことだが。
 彼女は本当に女子大生で、風俗やAVなどの経験は全く無いようだった。しかもどうやらセックスの経験も、そう豊富ではないらしい。そんな女の子がなぜか風俗に興味を持ち、ポルカのような男にメールを出し、そしてアドバイスに従って、あっさり入店してしまう。
 店名と店での源氏名を聞いたポルカは早速その店に電話して、予約を入れた。電話を受けた店員は入ったばかりの新人なのに、予約ということに驚いていたようだった。ポルカは「いや、もともとの知り合いで、遊びに来てって言われたもんで」と答えておいた。
 池袋の東口からほど近い雑居ビルの3Fにイメクラ『S』はあった。受付で50分コースの料金と指名料の計1万5千円を払う。待合室の壁には在籍嬢の写真が貼られているのだが、入店したばかりだからか、ミキの写真はそこには無かった。5分ほど待たされてから、ポルカは順番を告げられた。
「当店の注意事項です。本番行為、女の子の嫌がる行為などは禁じられております。それでは、ナナさんでご案内でーす」
店員がそう言って、カーテンを引くと、そこにはキャミソール姿の女の子が立っていた。中肉中背。特に美人というわけではなく、やや地味な顔立ち。道端ですれ違っても、全く記憶に残らないような、ごく普通の女の子という感じだった。少なくとも遊んでいるタイプには見えない。この店でナナという名前をつけられた彼女、ミキはポルカを見ると一瞬目を見開いた。
 手をつないで、個室へとポルカを導きいれると、開口一番。
「ポルカさんですよね。わぁー、雑誌に出てたのと同じだぁ。本当に来てくれたんですね。うれしーっ」
ミキはポルカに抱きついた。
「ははは、風俗の取材とかだと、みんな社交辞令で『遊びに来るよ』って言ってて、行かないらしいけど、おれ、いつも本当に行くから驚かれるんだ」
「すっごい、うれしいですー」
ミキは唇を合わせてきた。当然、ポルカもそれに応えて、舌を絡ませる。そのまま、プレイルームの半分を占める簡易ベッドに倒れこんだ。ディープキスをしたまま、ギューっと抱きしめあう。まるで恋人同士のように。メールのやりとりを密にしていたので、初対面という気がしないのだ。
 ポルカはミキの股間に手を伸ばす。ショーツ越しにも、そこが既に熱く湿っていることがわかった。布地越しに指先で撫で回していると、ミキはポルカの手をつかみ、ショーツの中へと強引に導いた。
「ね、いっぱい触って欲しいの」
ポルカの指はヌルリと肉の裂け目の中に飲み込まれる。地味な顔立ちのミキの、思いがけないほどの大胆な行動に、ポルカは驚く。驚きつつも指先で、そこをかき混ぜる。
「あうっ、ああ、ああーっ」
ミキはのけぞって悶える。ポルカはもう片方の手でキャミソールをめくりあげ、小ぶりの乳房を揉みしだいた。頂点の乳首が硬く勃起しているのが手のひらに感じられる。
「ポルカさん、すごい、エッチ…」
ミキはそういいながら、ポルカのジーンズのチャックを下ろしていく。もうペニスはとっくに大きく硬くなっていた。ミキはもどかしげに、それをつかみ出した。そして、自分の股間にあてがった。
「え、え? ちょ、ちょっとミキちゃん」
さすがにポルカも少し慌てた。だいたい、まだシャワーすら浴びていない。
「いやですか?」
「いやなわけ、ないけど、いいの?」
「だって、もう我慢できないんだもん」
ミキはポルカに跨るような姿勢で一気に腰を沈めた。じゅぶっ、と卑猥な摩擦音が上がる。
「ああーっ、気持ちいいっ」
突然の奇襲に、さすがのポルカも早々に果ててしまった。


「驚いたなぁ、ミキちゃんって、こんなエッチな子だったとは思わなかった」
「えー、だって、もう何人かお客さんついたんですけど、最後までしないから、なんか欲求不満になっちゃって。ポルカさんだったら、いいかなぁって思ったんですよ」
まだ頬を上気させたままで、ミキが答える。
「やってみて、どう? 風俗って」
「面白いですね。今まで男の人、あんまり知らなかったから、そういう意味でも」
彼女は、これまで男性とちゃんとつきあった経験もなく、セックス自体も数えるほどしかしたことはないという。しかし地味系のルックスとはいえ、その気になれば男性と知り合うきっかけに不自由することはないだろう。そんな女の子が好奇心だけで、あっさりと風俗入りしてしまうのだ。彼女の場合、自宅ということもあり、それほどお金に困っているわけでもなさそうだし…。今の女の子が風俗やAVに飛び込んでくる理由の薄っぺらさには、ポルカでも理解に苦しむ。
「普通に暮らしてたら、こんなにたくさんの男の人とエッチすることなんて、ありえないわけでしょ。面白いですよね」
ミキは屈託の無い笑顔を見せる。


 それから一週間ほどして、ポルカの携帯にミキからのメールが届いた。
「こんにちわー。もうお店辞めちゃいました(笑)。本番ばかりしてたら、店長に怒られちゃって…。でも、もう風俗ってどういうとこなのか、わかったからちょうどいいかと思って辞めちゃいました」
 入ってくる時も、辞める時も、あっさりとしたものだ。こんな時代に素人だ、風俗嬢だ、AVモデルだと区別することに意味があるのかなぁ、とポルカはつい考えてしまう。こういった仕事を一度もやったことない女の子なんて、いったいどれくらいいるのだろう…。まぁ、ポルカのようにエロ業界に生きている人間にとっては、脱いでくれる女の子がいっぱいいるということは、仕事のしやすい状況ではあるのだが、それでも、なんだか寂しい気持ちになってしまうのだ。


※「特選小説」(綜合図書)で連載している短編連作小説「さる業界の女たち」の2004年に書いた一編です。現場で色々聞いたり体験したりした実話をベースにしたセミフィクション。気がついたら5年以上という長期連載になってました。

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