「さよならもいわずに」(上野顕太郎 エンターブレイン)
最近、読んで印象深かった3つの漫画を紹介します。
まず、上野顕太郎の「さよならもいわずに」
「コミックビーム」連載時から、震えながら読んでいた作品。
漫画家・上野顕太郎が深夜仕事を終えて仕事部屋から居間へ戻ると、妻がうつぶせで倒れていた。
妻の突然の死、そしてその後の一年間を描いたドキュメント。突然の死という以外には、大きな事件があるわけではない。しかし、妻を失った男へと、押し寄せてくる凄まじい喪失感の描写が素晴らしい。妻の残した写真や映像などの記録を集めた末に、誰かが自分たちを盗撮していてくれなかっただろうか、とネットで盗撮DVDを探すくだりなど、狂気すら感じられる。
もし自分がこの立場だったら、と考えずにはいられないが、前書きの「まして自分は表現者だ、これを描かずにいられるだろうか。いや、あえて俗っぽく言うなら、表現者にとっての『おいしいネタ』を描かぬ手はない」にも深く同感してしまう。というわけで、妻よ、もし君が先に死んだら、たぶんネタにすると思う。すまん。