ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

「傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜」(伊達雅彦 パルコ)

 書店の店頭では同時期に発売された「リストラなう!」(綿貫智人 新潮社)の方が目立っていたようですが、個人的には同じく出版業界を扱っているこちらの本が気になっていました。
「リストラなう!」は著者が大手出版社を早期退職優遇制度によって退職するまでの日々を綴ったBlog(Blog時には、たぬきちを名乗っていた)の書籍化で、そのタイトルのイメージとは裏腹に大手出版社の高給と高待遇ぶりが話題を読んでいました。なにしろ45歳で年収1500万円に退職金5200万円ですからね。リストラというには、ずいぶん恵まれた感じ。
 一方、この「傷だらけの店長」は、同じ出版業界でも、本を売る現場、すなわち書店の店長のエッセイです。
 書店チェーンの雇われ店長である矢島氏。本が好きで、本を売る仕事が好きという一心で激務の日々に耐えている彼の心の叫び。いや、愚痴といってもいい。それだけに書店員の本音が伝わってくる。薄給で、休みもロクに取れずに黙々と働かなければならない、華やかさとは無縁の仕事。キャパシティを超えた作業量と闘い、万引き犯と闘い、理不尽な客と闘い……。それでも彼は書店員という仕事を愛し、ひたすら働こうとしていた。しかし、そんな彼の店の近くに大型書店が開店することに……。
 切ない。ただ、ひたすらに切ない本です。書店員だけではなく、あらゆる働く人間は、こうしたギリギリのところで闘っているのです。僕だって、表向きには脳天気そうに暮らしているように思われているみたいですが、常にプレッシャーに潰されそうになっています。必死に耐えています。だから、矢島氏の闘いの日々にも激しく共感します。心臓を鷲掴みにされるような気持ちで一ページ一ページを読みました。文章も素晴らしい。全ての大人、必読。

「傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜」


 僕は自分探しとか恋愛とかの「悩み」ってのには、まったく興味が持てないけれど、こういう大人の仕事や生活に関する「苦悩」については、もっと知りたい、感じたいと思います。
 というか、なんか世の中に溢れている物語とか歌とかって、あまりに「中二」的なところで止まってないかと思うのですよ。そりゃあ、リアル思春期がそういうのに共感するのはわかるんだけど、いい大人がそんなのばかりにハマってるのって、どうなのよって思います。
 もっとさぁ、大人の話を聞きたいし、大人の歌を聴きたいですよ。いや、大人っていっても、バーでバーボン傾けるような方向じゃなくて、もっとリアルな大人のね。
 日本でそういう歌をちゃんと歌えているのは、吾妻光良さんだけじゃないかなと。
 もうさ、みんないい大人なんだからさ!

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