ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

続おやじびでお 第7話 アダルトCD-ROMは黒歴史?の巻

 今回は時代をちょっと進めて90年代のお話。最近はブルーレイやら3Dやら、新しいフォーマットの話が出てきていますが、主流となったVHSとDVD以外にも、たくさんのメディアが登場しては消え、登場しては消えていきました。その中で比較的定着したのが90年前後に全盛を誇ったレーザーディスクくらいで、8ミリビデオ、ビデオCD、UMD、HD DVDなんてフォーマットでもAVはリリースさせていたんですが、どれもアッという間に消えていきました。
 しかし、そんな中でも唯一「これはもしかして新しいエロの表現を生むんじゃないかな」と思わせてくれたのが、アダルトCD−ROMでした。
 CD−ROM自体は今でも使われていますが、その当時はインタラクティブな表現が出来る全く新しいメディアとして注目を集めていたんですね。今のiPadの電子書籍で「すげー、絵が動く」とか、驚かれてるのと同じような感じですね。
 さて、アダルトCD−ROMが注目を浴びたのは93年の「YELLOWS」*1という写真家・五味彬の極めて芸術的なデジタル写真集のヒットがきっかけでした。実は「YELLOWS」は91年に写真集として出版されるはずが急遽発売中止となり、紆余曲折の末にCD−ROMという形態でリリースされることになったんですね。発売中止の理由は、ヘアがバリバリに写っていたから。今では笑い話ですが、当時は、まだまだヘアはタブーだったんですね。解禁されたかどうか微妙な時期。

 しかし、この「YELLOWS」が大ヒット。ここでCD−ROMイコール裸というイメージがついて、各メーカーはアダルトCD−ROMを作り始めるのであります。
 アダルトCD−ROM第一号と言われているのが93年にステップの「ハイパーAV」。これはAVのデータベースで当時の各作品のハイライトシーンのムービーやデータなどが整理されているというもの。
 そして90年代のデジタルアダルトメディアを牽引することになるKUKI*2が「ZAPPINK」で参入。

これはひとつのストーリーの中で3人の女優のカラミをザッピングできるというインタラクティブ性を活かした作品でした。以降、KUKIは「お好み亜紀ちゃん」*3「ヴァーチャル未亡人」*4「大ちゃん」*5と言った斬新な作品を次々リリースし、アダルトCD−ROM業界の雄となっていくのです。
 KUKI以外にもクリスタル映像、シネマジック、V&RプランニングなどのAVメーカー*6も参入しましたが、AVとは関係のない小さなメーカーからも面白い作品がたくさんリリースされていました。
 河豚カンパニーというところから出ていた「ソフトマシーン」「アスホール」なんて作品はサイバーでシュールで実にカッコよかったですね。

 そしてなんといってもプラネットピーチ*7。椿三四郎という謎のプロデューサー率いるメーカーで、一人の女の子のあらゆるデーターを収録した「ダッチROM」シリーズや、世界初の剃毛ソフト「そりまん」、シューティングゲームの結果によってコラージュの恋愛小説が完成する「スペースダッチROM マンシュー」など、最高にバカでエロな作品を連発。個人的には、椿三四郎を「アダルトCD−ROM界のゴールドマン」と呼んで、注目していましたね。

 実は僕はこの時期にフリーライターとして独立しています。アダルトCD−ROMの動きを見ていると、何か新しいことが起こりそうでワクワクして、このムーブメントに関わりたいと思ったのです。なので、デビューして数年は僕の仕事のメインはアダルトCD−ROM関連でした。たぶん当時、日本一のアダルトCD−ROMライターだったんじゃないかな。単に他にいないからですが(笑)。
 しかし、新しいエロ表現を生むのではないかという僕の思いとは裏腹に、売れるのは結局、AVのムービーをたくさん収録したものでした。斬新なインタラクティブ性なんて、誰も求めていなかったのです。この辺、最初はマルチアングル機能などにこだわっていたけれど、単に長時間化していったDVDも同じですね。
 結局、ユーザーはパソコンでこっそりAVを見たいという目的だけでアダルトCD−ROMを買っていたんですね。だから調査してみると、アダルトCD−ROMのユーザーは、普通のAVよりも年齢層が高いなんて結果も出たりして。つまりリビングのテレビでAVは見られないから、自分の部屋や会社のパソコンで見る、という。
 そうなると、その用途はその後に出てきたDVD、そしてインターネットの方がずっと優れているということで、アダルトCD−ROMは90年代後半には急速に衰退していったのでした。
 僕の手元には、まだアダルトCD−ROMが50枚ほど残っているのですが、そのほとんどは見ることができません。なにしろマックなら漢字トーク7、ウィンドウズなら3.1という時代のソフトですから…。
 今、思い返すと、あの時の高揚は何だったんだろうと不思議な気持ちになります。ピンク映画がAVになったことで全く新しい表現が生まれたように、アダルトCD−ROMも、全く新しいエロの景色を見せてくれるのではないかと僕は期待したのですけれど、それは残念な結果に終わりました。
 今、アダルトCD−ROMのことを思い出す人はいません。ネットにも、ほとんど資料は残っていません。アダルトCD−ROMは、アダルトメディアにおける黒歴史となってしまったのでしょうか…。

TENGU(ジーオーティー)2010年10月号掲載。アダルトCD-ROMに関しては、いつかちゃんとまとめてみたいなと思ってます。

*1:日本人女性の全裸を標本のように撮影した五味彬の写真シリーズ。当然のことながらヘアが写っている。その後たくさんのバリエーションが撮られた。

*2:77年より自販機本、ビニ本、カセットブックなどの出版社として誕生し、83年にAVに参入。以降、日本のAVを代表するメーカーとなる。93年にCD−ROM、95年には現在のX−CITYの前身であるKUKI TOWERをスタートさせるなど、デジタルアダルトのパイオニアである。

*3:中島亜紀とイメクラ的なプレイが楽しめる。

*4:ノーパン喫茶の女王イヴこと神代弓子主演。3DCGの世界をさまようアドベンチャーゲームで当時のアダルトCD−ROMの典型的なスタイル。

*5:CD−ROMブーム末期にどさくさにまぎれて作られた怪作。山下清的な男性キャラクターが巻き込まれる珍道中…。主演はハードコア全裸バンド、撲殺チェーンソーロボトミーの加藤!

*6:他にアテナ映像や宇宙企画など。現在コスプレAVで有名なTMAも当時はCD−ROMをたくさん制作していた。

*7:エロフロッピーソフト「エロッピー」を皮切りに、いかがわしさ満点の怪エロソフトや、バカソフトばかりリリースしていた。その異色の存在感は再評価されるべき。

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