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ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

僕がカンパニー松尾を支持する理由(1995年)

原稿アーカイブ AV

rioysd2012-04-05
「私が女優になった理由 クレージースペシャル」(ノアセレクト)はカンパニー松尾ファン、および映像に関心のあるすべての人間必見の1本だ。これはバクシーシ山下のプロデュースによるオムニバス形式のシリーズで、今回登場するのは、尾崎豊後追い自殺を3回試みたことがあるという木内アンナ嬢(20歳)、レイプされたこと がきっかけで運命が変わってしまったM女の金城なつき嬢(29歳)、そして借金の返 済のためにピンサロで働いている立木リカ嬢(32歳)の3人。金城なつき編のみカンパニー松尾がゲスト監督として制作している。
とにかく、問題はその金城なつき編だ。カンパニー松尾のドライなセンチメンタリズムにあふれた映像センスには、とっくに惚れ込んでいる僕だが、彼はさらに先へと進んでいた。カッコよすぎである。MTVじゃあ、あるまいし、こんなにカッコいい映 像でAVを作ってどうするつもりだろう。


コートから乳房(すんげえ美乳!)をさらけだして新宿副都心の地下道を歩くなつき 、そして完璧なM女として松尾に奉仕プレイをするなつき。その痴態をBPMめちゃ 早のクールなサウンドにのせてフラッシュバックさせ、その合間で、すっぴんの(年 相応に老けた顔の)彼女が生々しすぎる過去を語っていくという構成だ。カラミのシーンには全てコマ落としのエフェクトがかけられていて、映像の曖昧さが逆になつきのM女としての淫猥な嬌声を浮き出させ、なかなか興奮させてくれる。ま、いくら効果的とはいえ、カラミの映像に手を加えるのはAV界の御法度なのだが……。


また、これまでグランジ系やブルース系の曲をBGMに多用してきた松尾が、今回はジャングルっぽいサウンドでキメている。ちなみにMUSIC byのクレジットは「SEXY MOOGED PIZZICART BEAT STATIC FOR LOU&DONNAS FREE JAZZ SAX OR DIE SAMPLING ORCHESTRA」。はい、もうどんな音か想像つきますね(笑)。編集のセンスも今まで のおセンチなノリを吹っ切って、実にクール。グランジからテクノへの転向は何かの 変化を物語るのか? ま、単に流行にあわせた路線変更かもしれず、それもまたミーハーな松尾らしいのだが。


それなりに平凡で幸せな生活をしていた人妻、金城なつきの運命が急展開したのは28歳で白タクの運転手にレイプされてからだ。生まれてこの方、夫しか男を知らなかっ たなつきは、それ以来男性恐怖症になり、精神を病んでしまう。結局、夫にすら嫌悪 感を感じ、離婚。そして神経科に通ううちにクスリ漬けとなる。


いつしかクスリを買うお金欲しさにテレクラで売春を繰り返すことになるなつき。男 性恐怖症のはずだったのに、カラダを売るという行為に至る皮肉。


しかしテレクラで何人目かに知り合った風俗ライターが彼女に興味を抱き、AV出演 などの仕事を紹介した。その仕事を通して、なつきはSMを知る。縄師・明智伝鬼と のプレイによって彼女は自分のM性に気付いた。


今、彼女は幸せだという。


「AVやSMに出会って、やっと人間らしい生活ができるようになったんです。AVは本当に優しい世界です」
でも松尾は釈然としない。
「AVが優しい世界? なんか偽善っぽいなぁ」


AVによって生活も安定し、見られる快感も知ったというなつきの、恐らくは本心からであろう言葉に、松尾は違和感を感じる。
なぜAVに出るのか? お金のためか? 撮られることが好きだからか?


これは最近の松尾作品で繰り返し問いかけられるテーマだ。そしてそれはAV監督という仕事をしている自身への問いかけでもある。


カンパニー松尾の作品では過剰なまでの心情吐露テロップが多用される。松尾は女の子たちを描くふりをして自分を語る。8ミリビデオカメラで撮影される映像は松尾の 視野そのものであり、視聴者はいつしか松尾と同化していく。


呉智英つげ義春を評して「皮肉なことに、マンガに偏見を持つ人々が文学不振の元 凶と見なすそのマンガの中に、私小説の伝統が残ったのだ」と書いていたが、マンガより、もっと俗悪なものと見なされているAVが、現在において最もすぐれた「私小 説」的な表現を手に入れているような気がする。


カンパニー松尾バクシーシ山下平野勝之、そしてゴールドマン。AV第三世代と 呼ばれる彼らの作るビデオは、小説やTVや映画やマンガや音楽よりも僕の心をざわつかせてくれる。彼らの作品を見ているとなんか自分でもやらなくちゃという気持ちになる。


これ、かつてのパンクや、今のテクノからインスパイアされる気持ちと同じだと思うのだけど。


*「ロッキングオン」1995年6月号用に書いた原稿の没バージョン。掲載分は、もうちょっと固い感じになった。この原稿書いた時から17年。AVを取り巻く環境は大きく変化し、私小説的なAVは完全に姿を消した。

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