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ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

「日の丸電子書籍はなぜ敗れたか-21st centurye Book Story」(鈴木秀生 Kindle)

出版

 電子書籍に本の未来を見出して、トーハンを退職、イーブックイニシアティブジャパン、ボイジャー・ジャパンなどで、数々の電子書籍プロジェクトに関わってきた著者による、現場から見た日本の電子書籍の歴史の記録です。「21st century Book Story」としてBlogで連載していた文章をまとめたもので、長年出版業界に関わってきた著者が初めてセルフパブリッシングした電子書籍ということになります。

 著者が最初に出会って、衝撃を受けたのが2004年に松下電器産業(現パナソニック)の電子書籍端末「Σ(シグマ)ブック」。見開き液晶という個性的なスタイルのこの端末、ガジェット好きの僕も発売されるとさっそく実機を見に行ったのですが、その時の感想は「ダメだ、こりゃ」。とにかくゴツくて重くて(520g)、動作もモッサリしてて、読みづらい。しかも37,900円という価格。とても買う人がいるとは思えず、がっかりしたものですが、著者はここに本の未来を感じて、トーハンという大手を辞めて電子書籍の世界へと身を投じて行くのです。いや、これはすごい情熱だなと思いました。


 僕も、だいぶ立場とか意味は違うんですけど似たような経験をしています。90年代半ばにアダルトCD-ROMという新しいアダルトメディアが登場した時に「これはすごい!」と直感して、勤務していた広告代理店を辞めてフリーライターになったんですね。それまでも編集者やコピーライターとして会社に勤めながら、並行してバイト的にライターの仕事をやっていたんですが、もっと本格的にアダルトCD-ROMのことを書きたい! と思ったんですね。まぁ、本当は同じく盛り上がりを見せていた風俗のことも本格的に書きたかったというのもありましたが。
 当時のアダルトCD-ROMは「マルチメディア」と呼ぶにはあまりにショボイ代物で、その数年後には姿を消してしまうアダルトメディアの黒歴史のような存在だったのですが、その頃の僕は、「これがAVの次に来る新しいアダルトメディアだ!」なんて思って、膨大な量のソフトをレビューし、制作者に取材をしまくっていました。たぶんあの頃、僕は日本一のアダルトCD-ROMライターだったと思います。単に他にいなかったというだけではありますが。この辺の話は、こちらをお読み下さい。

続おやじびでお 第7話 アダルトCD-ROMは黒歴史?の巻

 閑話休題。そんなわけで、著者の情熱はすごく理解できるんですね。今は未熟なハード&ソフトかもしれないけれど、この先には新しい未来が広がってるんじゃないかと。そして著者は電子書籍という市場を開拓し、日本に根付かせていくために様々な闘いを続けていきます。それは闘いと言うに相応しい困難な仕事だったようです。端末を作る家電メーカーと、コンテンツを提供する出版社側の考え方の違いや、著作権などを巡る思惑の錯綜。そのほとんどは未だに解決されていません。
北斗の拳」のリリースによって好転する漫画配信、ケータイ漫画のバブルとその崩壊、そしてタイトルにもなっているように黒船、AmazonとAppleという海外勢による日本電子書籍の敗北へと歴史は綴られていきます。

 読んでいて、感じたのは著者に代表されるように、日本の電子書籍は多くの人たちの情熱によって育てられてきたということ。しかし、それが結果的に敗戦の原因になったのではないでしょうか。本書や、本書でも紹介されている業界内の人による電子書籍に関する書籍は、どれも書いている人の情熱が満ち溢れています。本の未来を考えるからこそ電子書籍を普及させたい。そんな想いが伝わってくる文章ばかりです。ただ、それが「綺麗事すぎるな」とも感じてしまう時があります。それは電子書籍関係に限らず、出版業界関係の書籍のほとんどでも感じることです。本は素晴らしいんだ、いい本をもっとみんなに読んでもらいたい。そういう気持ちは大事なことだと思います。

 でも、大上段に構えすぎていて、現実感がない。理想論にしか聞こえない時もあるんです。僕ら、書き手にとっては、出版業界が厳しくなる、本が売れないというのはあまりにも切実な問題なのです。食えるか食えないかの問題なんですから。僕もかなり早くから電子書籍で著作を発売していますが、その収入は笑ってしまうような内実です。お小遣いにもならないという金額です。ジャンルのチャート1位になったりしても、そんな現実だったりしていたので、僕はもうすっかり電子書籍というものには期待をしていません。興味はあるので、話があればコンテンツは提供しますが、趣味みたいなものだと思っています。でも単に趣味として書くならBlogの方がずっとたくさんの人に読んでもらえるんですよね……。

 日本の電子書籍業界は、出版人の未来への情熱に支えられて来た。しかし、だからこそ、ちゃんとビジネスにしようという意識の強い海外勢に負けてしまったのではないでしょうか。本書も、娘の誕生に電子書籍の未来を重ねたイントロダクションから始まり、「本の霊力」という言葉の意味について語るあとがきで終わります。そのロマンティックさに、弱さを感じてしまったのも正直なところです。
 最終章の「本当に守るべきもの」で語られる海外流通に全てを握られることで失われる「言論と表現の自由」への警鐘は実感しているだけに、日の丸電子書籍には頑張って欲しいのです。

 でも今は、色々検討して、koboや LideoではなくKindle PaperWhiteを使っています。やっぱりユーザーとしては、そちらの方がメリットが大きいからです。単純にメリットで判断して、日の丸電子書籍を選べるようになるといいな、と思います。

 

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