ダリブロ 安田理央Blog

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続おやじびでお 第11話 AVの歴史は代々木忠の歴史

 村西とおるカンパニー松尾など有名なAV監督は何人もいますが、一般の人が名前を知った初めてのAV監督といったら、ヨヨチューこと代々木忠になるのではないでしょうか? 
 60年代に成人映画から*1そのキャリアをスタートさせた代々木監督は、81年に愛染恭子*2主演の「淫欲のうずき」からアダルトビデオの世界へ進出します。最初は成人映画の延長とも言えるドラマ物を撮っていた代々木監督ですが、82年に「ドキュメント ザ・オナニー」*3という画期的な作品で大ブレイクします。
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 女性がカメラの前で、本気でオナニーをしているのを撮影するという、今では「それのどこが新しいの?」と思うような内容なのですが、それまでの成人映画やAVが、あくまでも女優がエッチな演技をしているという前提だったのに、「ザ・オナニー」には女性が本当に感じている姿が記録されていたのです。
 実はドラマ仕立ての本番物を撮影する予定が、その場になって女優が本番を嫌がったために、急遽オナニーに路線変更したという、偶然の産物によるものだったそうですが。
 しかし、そこに収録された「本物」の生々しさは、世の男性たちに大きな衝撃を与え、「ザ・オナニー」シリーズは空前の大ヒットを記録しました。
 またこの作品を再編集して成人映画館で上映するなんてことも行われていました。この時期のAVは成人映画をビデオ化した物が多かったのですが、「ザ・オナニー」は、その逆を行ったのですね。これも画期的なことだったと思います。以降、AVに押された成人映画は、このようにAVを映画化したり、AVのようにビデオで生撮りしたりと、どんどんAVに近づいて行くことになります。
 僕も当時、劇場版「ザ・オナニー」を映画館で見ています。高校生の頃でしたが(笑)、夜遊びしていて終電を逃してしまい、オールナイトのポルノ映画館で夜を明かしたのですね。今ならネットカフェが定番でしょうが、その頃は映画館のオールナイトという人が多かったんです。もちろん、こんなの上映されてたら、おとなしく眠ってなんかいられませんですけどね。悶える女性の生々しすぎる喘ぎ声が強く印象に残りました。


 この後、AV業界には美少女アイドルの波が押し寄せ、可愛い子なら本番は擬似でもOK。むしろ本番やる子は格が低い、なんて風潮になっていくのですが、代々木監督はそんな中でも、一斉を風靡した性感マッサージ師・ドクター荒井を起用した「性感極秘テクニック」シリーズや、催眠術を使った「サイコ(催眠)エクスタシー」シリーズなどで、女性が本当に感じている姿を撮り続けていたのでした。
 さらに嫉妬という感情を媒体に男と女の複雑な関係性をドキュメントした「いんらんパフォーマンス」シリーズ*4、視覚を遮断することで快感を増加させる「目隠しFUCK」シリーズ、風俗ビデオの回でも紹介した男のオーガズムに焦点を当てた「性感Xテクニック」シリーズなど、代々木監督はセックスという秘境の奥へ、奥へと探検者のように進んでいくのでした。

 それがある種の頂点に達したのが、90年の「悪霊と精霊たち」から始まる「チャネリングFUCK」シリーズ。体に触れずに精神交感だけでエクスタシーに達してしまうというチャネリングFUCKがテーマ。女性たちが何もしてないのにあえぎまくるというシュールな世界が展開。もはやオカルトの粋にまで達してしまった怪作でした。
 その延長上にあるのが92年リリースの「感じるビデオ ドグ」。全編CGやエフェクトされまくったサイケデリックな映像の洪水と、代々木監督のナレーション。これを観ていれば、エクスタシーの世界に入れるという催眠ビデオでした。この当時、流行していたドラッグビデオとリンクした試みだったとは思いますが、もうこれは全く持ってAVではありませんでしたねー。
 僕も当時、エクスタシーの世界に行こうとがんばって見ましたが、本気が足りなかったのか、目が痛くなっただけでした。

 この後も、代々木監督はハメ撮りテイストの「素人発情地帯」シリーズ、そして超長寿作「ザ・面接」シリーズ(110作突破!)などを手がけ、70歳を超える今も現役として撮り続けています。正にAV界のゴッドファーザー、真のカリスマというべき存在ですね。漫画界でいえば手塚治虫に匹敵するのではないでしょうか。
 初期を除けば、いわゆる単体はほとんど使わず、企画女優や素人、それも比較的地味めのルックスの女性を起用することが多く、むしろ男優の方がアクが強く目立っていると、今の主流のAVとはだいぶ異なっている代々木作品ですが、そのエロさは格別。さすがだなぁと見る度に感心します。
 さて、来年1月に「YOYOCHU SEXと代々木忠の世界」*5という映画が公開されます。代々木忠監督の半生を描いたドキュメンタリーです。僕も試写で見たんですが、ああ、代々忠の歴史イコールAVの歴史なんだなと実感しました。AV黎明期のターニングポイントとなった作品は、その大半が代々木監督によるものなんですからね。

 ローマ国際映画祭EXTRA部門のコンペティションに正式出品されたという「YOYOCHU」。日本のAV事情を知らない海外の人たちには、どんな風に受け取られたのか興味深いです。
 あの時代に、代々木監督が「ザ・オナニー」を撮っていなかったら(つまり女優がおとなしく本番を撮影していたら)、日本のAVが今のように世界でも類を見ない奇妙な進化を遂げることもなかったでしょうから……。

TENGU(ジーオーティー)2011年2月号掲載。代々木監督は今も「ザ・面接」を撮り続けています。2月発売分がVOL.142! 御年76歳!

*1:代々木監督は72年にプロデュースした「女子高生芸者」(日活ロマンポルノ)がワイセツにあたるとして9年間に渡る裁判に巻き込まれる。80年に出た判決は無罪だった。

*2:75年から成人映画で活躍。81年に武智鉄二監督の「白日夢」の主演に抜擢されたことから、一躍セックスシンボル的存在に。その後もストリップなどで活躍するが、2010年にヌードの仕事から引退した。この時、御年52歳。

*3:「主婦・斉藤京子の場合」「女子高生・西川小百合の場合」「女優・田口ゆかりの場合」など全7作が日本ビデオ映像から発売。

*4:シリーズ初期は咲田葵や沖田ゆかりなどの淫乱女優が出演したが、やがて素人カップルなどの人間模様を描くドキュメント路線に。87年の「恋人」は傑作の呼び声も高い。

*5:80年代に代々木監督のスタッフを務めていた石岡正人監督作品。愛染恭子加藤鷹、栗原早紀などの女優・男優はもちろん、笑福亭鶴瓶なども登場する。ナレーションは田口トモロヲ

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