ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

AVの向こう側へ

 僕の「レンタルAVの見た夢」から始まった雨宮まみとのHMJMを巡る短い論争は、一部では話題にはなったようです。でもそれは、どちらかといえば業界の人、あるいはAV業界に興味がある人が中心で、実を言えばこの論争を通して、もっとAVとは無関係の人にまで輪が広がるかなぁ、そうすればHMJMに興味を持ってもらえるかなぁ、なんて考えていたのですが、そこまでは至らなかったみたいです。残念。もっと雨宮まみと口汚く罵りあった方が注目をひけたか(笑)。

 この論争を引き継ぐ形で、ライターの大先輩であり、僕の憧れの人である東良美季さんがblog「追想特急〜lostbound express」「ロックンロール・キャン・ネヴァー・ダイ」で、HMJMについて素晴らしい文章を書いてくれました。たくさんの人が、この文章を読んで勇気づけられたようです。HMJMに関する僕のモヤモヤした思いが、この文章でかなりスッキリと解決しました。まぁ、とりあえずは読んでください。ちょっと長いけど。

 はい、読みましたか。熱くなりますよね。東良さんの文章は心の奥のとこにある何かの器官を刺激してくるんです。僕は「モノを作ることの圧倒的な快楽」という一文が、なによりの解答だったように思います。カンパニー松尾たちは「モノを作ることの圧倒的な快楽」を知ってるんです。とりあえず、それがあらゆる快楽に勝つことを知ってるんです。

 実は今、HMJMリリース凍結についてカンパニー松尾にインタビューした原稿を書いている最中です(「ビデオ・ザ・ワールド」5月号に掲載予定)。原稿をまとめる前に、HMJMがリリースした7枚のDVDを改めて見返しました。インタビューの時にカンパニー松尾が「この7枚の内容に関しては絶対的に自信がある」と言い切ったのも、うなづけるクオリティの高さです。

 でも、このHMJM作品を堪能すればするほど、「でも、これAVなのかな?」という思いも強くなりました。いや、「AVである必然性はあるのかな」と言った方がいいかもしれない。カンパニー松尾はAVというジャンルに強いこだわりを持っている人で、HMJMのサイトにもにも「おもしろいAVはここにある」というキャッチコピーが踊っています。そういえば、かつて原作を手がけた自伝的な漫画にも「職業・AV監督」*1というキッパリとしたタイトルをつけていたっけ。

 カンパニー松尾のハメ撮りは、確かに素晴らしくエロティックです。十分実用的でしょう。というか、カンパニー松尾のハメ撮り見てると、やたらめったらにセックスがしたくなって困るんですけどね、オナニーではなく(笑)。そういう意味ではAVとしても、しっかり成り立っているのですが、それがネックとなっている部分にもなっているのではないかとも思えるのです。アダルトビデオだから、ということで手を出せない、あるいは初めから興味を引かないという層も多いのではないでしょうか。そしてHMJM的なビデオに共感を覚えるであろうユーザーは、そうした層に多いのではないかと。今、アダルトビデオショップに通っているユーザーは、HMJM的なビデオを必要としていないと言い切ってもいいでしょう。

 AVではない、セックスをテーマとしたドキュメントというジャンルがあってもいいのかなと考えました。ちょうど今日発売の「漫画アクション」(4月5日号)の柳下毅一郎氏のコラムで「HMJMの作品はノンフィクションでありアダルトエンターテインメントではない」と語られています。そして「2004年のもっとも優れたドキュメンタリー」とも書かれています。そうなんですよ、質の高いドキュメンタリーなんですよ、HMJMの作品は。これをAVという枠で考えようとするから、問題がややこしくなる。もういいじゃん、AVじゃなくても。あなたたちは、もう十分AVに貢献したよ。お疲れさま。

 僕個人としては、「エロ」というものは、ピュアなズリネタであるべきだという考え方も捨て切れません。「エロ」は何でも受け入れるフトコロの大きい自由なものだけれど、「エロ」の皮を被ったアートというものには抵抗もあります。あとアートだとか言い張るエロも大ッ嫌いだし。さぁ、オナニーするぞぉっ、という気持ちで買ってきた(あるいは借りてきた)ズリネタが、使えないものだったりした時の怒りと失望は許せるものではありません。最近のどんどん余計なものをそぎ落としてピュアなズリネタへと進化しているAV、そしてどんどん抜きとは関係ない一色ページの記事が減っているエロ雑誌に、真っ向から「それじゃ、つまんないじゃん」と言い切ることには躊躇してしまいます。いや、おかげで僕の仕事も減ってるから困ってるんだけどさぁ(笑)。

 もうHMJMはAVの看板を掲げるのを止めた方がいい。別にAVじゃなくてもエロティックなものは、いっぱいあるわけだし、一般映画の一シーンに興奮してズリネタに使うことだってあるでしょう。使い道は各自の自由にすればいい。むしろAVの看板のおかげで、必要としている人に届かなくなる弊害の方が大きいと思うのです。セックスシーンを少し短くして、直接的な表現を避けたとしても、HMJM作品の本質は変わらないでしょう。実用度だって、あまり変わらないでしょう。どーせ、松尾さん、やる時は女の子、全部脱がせないし(笑)。

 実際に、去る3月12日にアテネフランセ文化センターで上映された「アイデンティティ」*2は、セックスシーンを短くした特別編集版だったと聞きます*3。セックスシーンを短くできてしまうという時点で、もうこれはAVであることを放棄してるわけでしょう。それを他の作品でもやればいいのに。

 僕個人としても、これからHMJMファンとして、エロではない媒体にHMJMを紹介することを積極的にやっていこうかなぁと考えています。柳下氏のコラムのように。必要としている人に届けるために。とりあえず復刊した「BUZZ」(ロッキングオン刊)の次の号のコラムでHMJMのことを書く予定。書かせてくれる媒体募集中(笑)。

 つーか、さっさと「ビデオ・ザ・ワールド」の松尾インタビューの原稿書けよって話ですね、blogにこんな長々と原稿書いてないで(笑)。今日締め切りなんですけど、ちょっと遅れるかも、ごめん、吉田編集長。

*1:ヤングチャンピオン連載 漫画:井浦秀夫

*2:HMJMリリース第2弾。松江哲明監督作品。在日をテーマにしたドキュメント。

*3:アテネフランセ上映版は、セックスシーンのみを短くしたものではなく、全体的に編集しなおしたバージョンだったそうです。事実誤認をここに訂正し、関係者各位に謝罪いたします。

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