ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

「アダルトビデオ最尖端」(藤木TDC コアマガジン)

アダルトビデオ最尖端?身体と性欲の革命史?

アダルトビデオ最尖端?身体と性欲の革命史?


 小さいながらもエロライター界という業界があるわけです。なかなか若手が育たないので停滞気味ではありますが、まぁ数十人くらいはエロライターとして分類されるフリーライターはいると思うのですね。僕もそのうちの一人なわけです。
 そしてその中で、一番の書き手ではないかと常々僕が尊敬しているのが藤木TDCさんであります。藤木さんがエロライターとしてデビューした1985年から、僕はずっと読者として原稿を読ませていただいているのですが、その冷静な客観性と広く深い知識、そして鋭い洞察力にはいつも唸らせられています。実はこうしたタイプのエロライターは他にあまりいないんですね。エロを書こうとすると、その素材の性質上、ついつい自分の感情や嗜好に偏った独りよがりの文章になりやすいんですね。そして情報量の裏付けの乏しさを、そこで誤魔化してしまう。
 これはもちろん自分の対しての反省でもあります。だから、僕はいつも藤木TDCさんの文章を読む度に激しい嫉妬を感じてしまいます。ああ、この人には勝てない、と。

 2009年に発売された藤木さんの「アダルトビデオ革命史」(幻冬舎新書)が正にそうした本でした。AVの歴史を、テクノロジーの進歩や、社会情勢からの影響という面で描き出した力作で、「おれもこういう切り口で書きたかったんだよなぁ。でもこんなクオリティはおれには無理だな」と読んでいる間中、思っていました。打ちのめされました。
 そしてこの新刊「アダルトビデオ最尖端 身体と性欲の革命史」(コアマガジン)です。「アダルトビデオ革命史」は80年代のAVの誕生から現在までに至る変革の歴史を追ったものですが、「アダルトビデオ最尖端」はタイトル通り、現在のAVの中でも異端ともいえる最も先鋭化したジャンルについてのルポです。ぶっかけ、ファッキングマシーン、シーメール、海外ロケ、格闘技、微乳、高年齢女優・男優と、普通のAV考察からは外れてしまうようなこうした辺境のジャンルが、なぜ誕生してどのように発展していったかを圧倒的な情報量の裏付けを元に考察していきます。
 ぶっかけが生まれたのは、ブルセラブームが終焉を迎えたから、巨大な性交機械ファッキングマシーンが作られたのは中国製の安価な性具が広まったから、シーメール(男性器の残っているニューハーフ)物が増えたのは審査団体の修正基準が厳しくなったから……というように、風が吹けば桶屋が儲かる的な意外な因果関係が多くの証言によって解き明かされていく様は、実にスリリングです。人間の性欲の複雑さ、その面白さ。そして思いも寄らない偶然による展開。AVに対しての知識や思い入れがない人にも、単純に楽しめるのではないでしょうか。
 最近僕はアダルトメディア研究家なんて肩書きを名乗ったりすることがあるんですが(ちょっと前に中村淳彦君がつけてくれた)、藤木さんの著書を読むと、恥ずかしくなっちゃいますね。いや、ホント。

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