ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

江古田で一番古い喫茶店「トキ」閉店

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 半月ほど前に江古田住人の間に衝撃が走りました。江古田で一番古い喫茶店こと「トキ」が閉店するというニュースが流れたのです。確かにここ数年、開店時間が遅くなったり営業が不定期になったり、そして二階が別の店(猫居酒屋・赤茄子)になったりと、不安要素はたくさんあったのです。それでも「トキ」だけはいつまでも無くならない、無くなって欲しくない。そんな気持ちが江古田住人の間にはありました。「トキ」は江古田のシンボル的存在なのです。

 なにしろ創業昭和三十三年。今年で55年目。学生街である江古田で半世紀以上もたくさんのお客さんに愛されてきた店です。
 そのニュースが流れてからというもの、毎日たくさんのお客さんが押しかけ、行列が出来ています。そしてもちろん僕もその一人となりました。
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 僕が江古田に住み始めたのは1986年、19歳の時です。その頃からトキには足繁く通っていました。いや、もともと高校時代に友人がたくさん住んでいた関係で江古田に入り浸っていたので、それ以前から行ってたかもしれないですね。まぁ、いずれにせよ30年近いお付き合いなのです。
 今、残っているデジカメ画像を調べてみたら1996年8月にトキで撮ったスパゲティの画像が出て来ました。
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僕がこよなく愛するナポリタンと、この別皿にあるのはコロッケかな? ナポリタン580円、カツ、コロッケ、魚フライ、ウィンナーなどのトッピングが170円という値段は確かその頃から変わらないはず。でも当時はハンバーグもあって、それも大好きだったなぁ。手作りっぽい味で。


 つきあい始めの頃の今の妻も連れて行き、それから結婚して子供が出来てからは家族で通いました。我が家にとっては「トキ」はファミレス代わりでしたね。ファミレスはほとんど行かなくて、トキばっかりだったなぁ。子供連れて行くと、いつもお菓子をオマケにくれるんですよね。と、いうか、誰が行ってもオマケがあるんですよね。ライオネスコーヒーキャンディーとか、アイスコーヒーとか、アイスクリームとか……。学生から近所のおじちゃん、おばちゃん、家族連れ。すべてを受け入れてくれる店でした。

 そして「トキ」の名物といえば大盛り。スパゲティは並でも普通の店の大盛りくらいあるんですが(50円引きの少なめが他店の普通盛りくらいだとメニューに書いてある)、150円増しの大盛りだと、コップや料理の皿を載せてくるトレイ大の巨大な銀皿に乗ってきます。そして400円増しの特大は、その皿に山盛りという恐ろしさ!
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 どうですか、この迫力。僕も若い頃は何度か挑戦しましたが、昼に食べて翌日の昼までお腹が苦しかったです。それで980円というのも激安!

 8年ほど前に、いい年になってしまい自分では食べられなくなってしまったので、若い奴に食べさせてそれを見物しようと、まついなつきさんと企画したことがありました。特盛ナポリタン、特盛カレー、特盛パフェにそれぞれ一人づつ挑戦させたんですね。
 はい、特盛ナポリタンを前に唸る若者A。
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 そして特盛カレー。カレーポッドが二つにコロッケのオマケ付き。
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 特盛パフェ。
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 むしゃむしゃ食べます。
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 若者B、あの恐怖のカレーを見事クリア!
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 若者Cもパフェをクリア。「食べてるうちに身体が冷えてしまうのがキツかった」そうです。食後慌ててホットコーヒーを飲んでました。
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 そして一人だけクリアできなかった若者A。ちなみに彼は8年経った今もナポリタンが食べられないそうです……。
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 漫画がいっぱいあるのも「トキ」の魅力でした。休日の午後にダラダラと二階でサラダをつまみにビールを飲みながら、オリジナルのKCコミックの「釣りキチ三平」とか「美味しんぼ」とか「三丁目の夕日」とかを読むのも好きでした。子供にはパフェとかホットケーキを与えてつきあわせたりしてね。ああ、二階を仕切ってたおばちゃん懐かしいなぁ。あとプリンセス・テンコーに似てるお姉さんとか……。
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 僕が「トキ」で特に好きだったのがカツカレーです。「トキ」のカレーは「牛肉、たまねぎ、にんじん、セロリをたっぷり使ってじっくり煮込んで仕上げました」(メニューより)というドロドロタイプなんですが、フルーティで懐かしい感じの独特の味わいがあるんですよね。柔らかいお肉がゴロンゴロン入ってるところに、さらにボリューミーなトンカツ。ルーが足りなくなると追加してくれるサービスも嬉しかった。僕の好きなカレー、ベスト3に入ります。
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 あのカレーが食べられなくなるなんて! しかも情報によれば、カレーは閉店の日を待たずに品切れになりそうだというじゃありませんか。いても経ってもいられずに、「トキ」に飛んで行きました。
 実は「トキ」の閉店は母親の介護のためだということです。母親って、お店で働いていたあのおばあちゃんのことかなぁ。確かにかなりの高齢でした。その介護の関係なのか、営業時間もかなり不安定なのです。開店はいつも14時過ぎで、夕方には閉店してしまうようです。ううむ、仕事場に行くのが遅くなってしまうけど、これはしょうがない。だって「トキ」だもん。

 時間まで自宅で仕事して、そして14時少し前に「トキ」へ向かいました。日によっては15時開店の時もあるというので、少しドキドキしながら。おお、もう営業してました。でも既に満席で、待ってる人もいます。まぁ、今日は並ぶの覚悟で来ましたからね。と、待っていたら、江古田在住のイラストレーターTOMOKUNI君に声をかけられました。おお、君も来たのね。じゃあ、一緒に食べましょう。それほど待たずに席に座れました。
 昔からやたらと「いつもすみませんね」を連発する腰の低い接客の「トキ」なんですけど、この日はいつもに増して「お待たせしてすいません」と謝りっぱなしのおばちゃん。みんなわかってますよ。ちょっと待たされたからって文句言う奴なんか、一人も来てませんよ。だって、あの「トキ」が最後なんだから。

 そしてどうやらカレールーが無くなってしまうのか、今日でカレーがおしまいというのは本当だったようです。今日、飛んで来てよかった! 食いおさめできなかったら、後悔してもしきれなかったでしょうね。
 やってきたカツカレーは、いつもどおりの味わいとボリューム。辛さ自体はちょいマイルドなので、卓上に用意されたカレーホットで少しずつ辛さをアップさせながら食べるのがコツですね。それにしてもご飯が進んじゃう味なんですよね、「トキ」のカレー。
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 かなりのボリュームなんですが、あっという間に食べ終わっちゃいました。食べ終わるのが惜しかったですよ。だって、食べ終わったらもう、「トキ」のカレーを食べることができなくなるわけですから……。
 でも食べ終わった頃に、おばちゃんが「サービスよ」とアイスコーヒーを出してくれました。こんなにドタバタしてる状況なのに、「ゆっくりしてってね」とアイスコーヒーをサービスしてくれる。
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これが「トキ」ですよ。でも、待ってるお客さんがいるから、急いで飲み干しちゃいましたけどね。

 なんとかカレー最後の日には間に合ってホッとしました。そして翌日、今度は妻と娘が二人でナポリタンとミートソース、チョコパフェを食べてきたと聞きました。
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 む、む、む……。やっぱりナポリタンも食べておきたい……。一応15日まで営業するらしいけれど、どんどんメニューが品切れになっている模様。もしかしたらスパゲティだって危ないな……。もういてもたってもいられなくなって、また行ってしまいましたよ。
 また14時に向かうと、既に満席。そして入り口には椅子が置かれて「CLOSE」の表札が。え、どういうこと? と入り口から情けない顔でおばちゃんを見ると「時間かかっちゃうけど、いい?」と入れてくれました。最後にあいていたテーブルをなんとかゲット。ああ、よかった。既に定食類はなく、メニューはナポリタンとホワイトソースのスパゲティ、そしてホットケーキやプリンくらいしか作れないとのこと。ええ、僕はナポリタンがあればいいんです。ナポリタンを食べに来たんですから!

 時間がかかると言われたけれど、実際にはそれほどかからずにナポリタン到着。
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ああ、これこれ。「トキ」のナポリタンは実は少し変わっています。特注の2.2mmの極太麺というのもユニークですが、具がベーコンとコーンとマッシュルームだけなんですね(以前はエビもあった)。つまりナポリタンでは常連のピーマンと玉ねぎがなぜか入ってないんです。
 実は僕はピーマンが苦手、そしてナポリタンにおいては玉ねぎのシャリシャリした歯ざわりは邪魔なんじゃないかと思っています。この持論はあまり他人には理解されないんですが……。そんな僕には、ピーマンと玉ねぎ抜きの「トキ」のナポリタンは、理想のナポリタンなのですよ。
 ちょいと甘ったるいケチャップ味に、コップに入って提供される「オランダ産100%ナチュラルチーズ」(メニューより)をどっさりふりかけ、タバスコでアクセントをつけつつ、ぶっとい麺をすすりこみます。ああ、この味。27年、親しんできたこの味。これをもう食べることが出来ないのか……。カツカレーの時も思いましたが、食べ終わるのが本当にもったいなかった。終わりたくない。いつまでも食べ続けていたい。そんな気持ちでした。そして涙がこみあげて来そうでした。

 甘いものは苦手なので、いつもはデザート類は食べないのですが、この日は「アイスクリームがないから100円でいいわ」というプリンもいただきました。手作り感の強いしっかりしたプリンでした。
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そして、やっぱりサービスしてくれたアイスコーヒー。ああ、「トキ」満喫……。

 おばちゃんは、お客さん一人一人に「長い間、ありがとうございます」と声をかけていました。会計の時にギュっと握手してくれました。また涙が出そうになりました。
 19歳でこの街に住み始めて、会社に務めては辞めを繰り返しながらこの店でナポリタンを食べ続け、そしてフリーライターになり、結婚して子供が出来て、家族で通い、今ではその子供が高校生と中学生……。お店の歴史というのは、通っていた自分たちの歴史でもあるわけです。たぶんかけつけたお客さんたちも、みんなそんな思いだったのでしょう。

 半チャンラーメンのセットが200円だった「愛情ラーメン」、定食がみんな300円代だった「じゅん」、昼のカレーがユニークな味だった「黒田武士」、鉄板麺セットが最高の「大盛軒」にスタミナ焼きが至高の「洋包丁」、おにぎりの「やぐら」、レバニラ炒めと冷菜麺が絶品だった「長寿軒」……。僕が好きだった店は、もう江古田にはほとんど残っていません。街は常に生まれ変わっていくものだとはわかっていますが、やっぱり寂しいですね。
 こうした店たちと同じように愛せる店が、また新しく出来るといいな、とは思っているのですが……。

 55年間、お疲れ様でした、「トキ」。


 最後にオマケとして僕の撮っていた「トキ」写真集をどうぞ。

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まだ子供が小さい頃はブーブーナポリタンが定番でした。

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妻はミートソース派でした。

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ソーセージのトッピングもよく頼みました。

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以前はカツなどのトッピングは別皿でした。

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かき氷もたくさんの種類があって一年中やっていたのですが……。

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2010年にこういう理由で姿を消しました。

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カレー好きの寺田克也兄ィを連れてきたことも。

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店内はこんな感じ

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メニュー表。実はメニューの新品をもらえました。家宝にします
アップはこちら

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メニュー中。アップはこちら

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ショーウィンドウ1

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ショーウィンドウ2


江古田トキの看板人形 - YouTube
ショーウィンドウの中の看板人形は長年­微動だにしなかったけれど、閉店を目前にして動き出しました!


 

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