ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

続おやじびでお 第16話 歌うAV女優たち

 恵比寿マスカッツが絶好調であります。CDもかなり売れてるみたいですし、一般コミック誌の表紙なんかも飾ったりして、彼女たちがAV女優だとは知らない*1若いコも多いという話も聞くようになりました。飯島愛を除けば、AV女優がメジャーな音楽シーンで成功した初めての例と言えそうです。

 AV女優の音楽活動はAV黎明期の80年代から活発でした。その第一号と言えるのが1986年にシングル「サンセット・ハイウェイ」をリリースした美光水(レイクス)です。杉原光輪子、森田水絵、山口美和によるグループでした。
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美光水「サンセット・ハイウェイ」

その後も、早川愛美や秋元ともみ、かわいさとみと言った宇宙少女や、初代AVクイーン・小林ひとみ、斉藤唯・冴島奈緒・葉山みどりによるRacco組*2なども次々とレコードデビューを飾っていきました。
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秋元ともみ「少女神話」

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Racco組「レモンのキッス」


 しかし、彼女たちの歌う曲はモロにアイドル路線。80年代後半は、小泉今日子おニャン子クラブによってそれまでのアイドル像が破壊されていた時代でもあります。そんな中で彼女たちが歌うのは清純アイドル路線。AV女優なのに清純路線ってのはどういうことよ? と明らかに変なのですが、当時のAVアイドルは清純をウリにしてたコが多かったんですよね。
 そしてそのイメージのままで、芸能界に進出しようとしていました。そこに悲劇があったように思えます。芸能界からすれば、やはりAV出身者にはエッチ担当というポジションを求めてしまうわけですから。オールナイトフジにレギュラー出演していたかわいさとみなんて、そのスタンスに苦労してたみたいですね。素人女子大生の方がよっぽどイケイケでしたから。

 その辺をAVサイドもわかってきたのか、90年代に入ると松坂季実子&ラサール石井「ソレソレどうするの?」や憂木瞳&イジリー岡田「マンゴ・ナタ・デ・ココ」のようにあからさまにイロモノっぽいノリの曲も増えてきますが、基本的には従来のアイドル路線は継続され、ファンイベントなどで歌うための、いわばキャラクターアイテム的な位置づけになっていきます。
 そしてCDを自主制作するのが容易になってきたため、インディーズレーベルからリリースするAV女優が増えていくのですが、そんな中でも変わり種が、90年代後半に巨乳女優として活躍した沢口みき。00年に「私の胸でおねむりなさい」というアルバムをリリースしているのですが、その発売元はなんと日本のアバンギャルドミュージックの名門レーベルであるアルケミーレコード。そしてプロデューサーは日本を代表するノイズミュージシャンのJOJO広重! 作品もまたかなり前衛的なものでした。
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沢口みき「私の胸でおねむりなさい」

 ノイズと言えば、白石ひとみ*3もノイズミュージシャンに転向しましたね。こちらはノイズといっても、サンプリングなどを中心とした電子音楽系。二人ともAV時代とは、ずいぶんイメージの違う活動でした。
 音楽活動をするのはAV女優ばかりじゃない。男優やスタッフだってレコード出しちゃうぞ。というわけで、美光水より先の85年にリリースされたのが「ERO FOR AFRICA」。フェチ系男優&監督として一世を風靡した中野D児*4のレコードで、タイトル通りに「ウィー・アー・ザ・ワールド」のUSA FOR AFRICAのエロ業界版。でも、バックミュージシャンはスクリーンやタイツといったニューウェーブ系の有名バンドのメンバーが手がけていて、リリースもそっち系のレーベルから。ちなみに中野D児はその後も5枚もアルバムをリリースしています。まぁ、ローリング・ストーンズのコレクターとして世界的に有名な人ですからね、元々。
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「ERO FOR AFRICA」

 そういう意味じゃ忘れちゃいけないのが、松嶋クロスとインジャン古河*5という二人の監督のユニット、CAMPAKEX。2006年にアルバム「LEVEL OF CAMPAKEX」をリリース。バンド名からわかるように布袋寅泰と吉川晃司COMPLEXを意識したユニットですが、本気度はかなりのもので、松島クロスはこの後は音楽活動に本腰を入れていきます。

 AV女優に話を戻しましょう。恵比寿マスカッツ以外にも音楽活動をしている女優は多いのです。昨年「夢花火」で配信デビューしたつぼみや、自分で作詞作曲、演奏まで手がける春咲あずみ*6などは、AV女優の余技とは思えないほどクオリティが高いんですね。

つぼみ TSUBOMI 夢花火(セクシー Ver.)MV - YouTube

 さて、そんな中で私がベストAV女優ソングとして選ぶのは、笠木忍の「ハートがまっぷたつ」です。これは2002年にリリースされた「放課後レズビアン しのぶのペニバン日記」の作中に流れる主題歌として犬神涼監督が手がけた曲なんですが、おせじにも上手いとは言えない笠木忍ちゃんのボーカルと切ない歌詞がぴったりとマッチして、マニアックな音楽ファンの間でも高い評価を受けているんですね。

ハートがまっぷたつ/笠木 忍 - YouTube
 先日、私もとあるアイドルポップスのイベントでDJをやった時にこの「ハートがまっぷたつ」をかけたところ大変評判がよかったんですよ。さらに最近になってボーカロイドでこの曲をカバーしたものがニコニコ動画にアップされているのも発見。

笠木忍引退記念DVDボックス」の付録として8センチCD化されただけなので、一般には販売されていないこの曲がこんなに評価されているというのは、考えてみるとすごいことですね。

 一方で現役シンガーソングライターの松浦ひろみがAVデビューするなど、ますます音楽業界とAV業界はボーダーレス化が進んでいるわけですが、恵比寿マスカッツの活躍はさらに新しい動きを予感させますね。なにしろデビューCDの最高位8位*7はAV業界始まって以来の快挙ですから! 
 ちなみに鼠先輩の「六本木 GIROPPON」は最高13位でした。あれ、意外。

TENGU(ジーオーティー)2011年7月号掲載。恵比寿マスカッツは残念ながら2013年に解散してしまいました。この他にも結城リナがAV女優引退後、シンガーソングライターとして本格的に音楽活動をしています。

笠木忍「ハートがまっぷたつ」は、なんと11年後の2013年にビクター(!)から正式にネット配信されました。

笠木 忍|Victor Entertainment

*1:一般誌などではセクシー女優という表記になっている。まぁ、メンバーの中にはグラビアアイドルもいるし。

*2:トラブルなどで、半年後には斉藤唯、森村あすか、星川メグにメンバーチェンジした。ロック志向の冴島奈緒はアイドルぶるのがイヤで逃げ出したらしい。

*3:現在は映画の脚本やプロデュースを手がけているというから、元々そっち方面の資質のある人だったのだろう。

*4:人間便器男優としてビニ本デビュー後、自主制作AVをいち早く手がけて成功したり、SMの不朽の名作「シスターL」(主演・菊池エリ)を監督・出演するなど80年代のAVではカルト的なスターだった。ちなみにストーンズのコレクションは、後に全部売り払ってしまったとか。

*5:このコンビが鼠先輩の「六本木」を手がけるのは周知の通り、だけど言っちゃいけないんだっけ?

*6:CDとしては正式発売していないようだが、主演作「触手に溺れて 女子大生の憂鬱」(アタッカーズ)に曲が収録されている。びっくりするほど爽やかで上質なJポップ。なので作品には合っていない(笑)。

*7:サードシングルはデイリーランキングで2位を記録。

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