ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

ニューウェーヴたち 平成のビザールSM(1994年)

90年代のボンデージ/SMビデオシーンのスターと言われて、まず頭に浮かぶのは ゴールドマンだろう。80年代末期に突然AV界へ登場し、次々と怪作を発表。これまでのアダルトビデオの文脈から全く切り離された表現で話題をふりまいた謎の怪人監督だ。ビニールテープを駆使したボンデージと魚眼レンズによ るカメラワークは正に唯一無比。日本の伝統的な縛りとも、欧米のボンデージとも全く異なる感触を持っているのだ。ゴールドマンのプレイにおいては、女は全く人権を 持たないモノとして扱われている。カラフルなビニールテープやガムテープによって 原形をとどめぬまでに変形させられた女体は、オブジェとしての魅力は感じさせるものの、セックスアピールを完全に奪われてしまうのだ。
現在はボンデージ色は薄まり、不条理大バカ路線とでもいうような作風へと落ち着いているが、女性をコケにしきった態度は変わらない。モデルはゴールドマンの口から マシンガンの様に連射される自分勝手なギャグに翻弄され、いつのまにかに浣腸まで される羽目に追い込まれていく。

正にニューウェーブというに相応しいゴールドマンに対して、クラシカルなボンデージへの敬意を隠さないのが中村京子だ。超ベテラン巨乳モ デルとして有名な彼女だが、数年前からボンデージビデオを自主制作したり、イベントを開催するなどマイペースながらも地道な活動をしている。ベティ・ペイジをアイドルとする中村は、妙に明るく間の抜けたアメリカン・ボンデージの世界に強く惹かれるという。確かに彼女のビデオでは、あの独特のムードがうまく再現されている。

さて、最近AV業界でも注目を集めているのがインディーズビデオだ。マニアが自ら撮影、編集した自主制作ビデオ。ワープロ打ちのタイトルに生写真を貼り付けただけの 簡素なパッケージ。いかにも手作りという感じの素人くささが、逆にリアルなイメージを作りだしている。先頃話題になったブルセラビデオもその変種といえるだろう。 高田馬場「タイヨー」に代表されるマニア系ビデオショップでは、こうしたインディーズビデオが一般AV以上の売上を記録しているという。

このブームのきっかけを作ったのが、佐藤義明の「SMマニア撮り」シリーズだ。ナンパした素人女性とのSMプレイを記録したこのビデオ、内容自体に目新しさはないのだが、パッケージ化されすぎたAVメーカーのSMものに飽きていたユーザーに、素人ならではのプライベートなリアルさがアピールしたのだろう 。

その佐藤作品と人気を二分するのが松下一夫の「美少女 スパイ拷問」シリーズだ。アニメ「ルパン三世」の峰不二子がくすぐりの拷問を受け る姿に強い性衝動を覚えたという松下一夫は、自らのビデオでそのシーンをしつこいまでに繰り返し再現していく。リリース作品はすでに20本を越えているが、そのシチュエーションが全て同じ、セリフもほとんど同じというのは驚異的だ。まさにオタクなセンスをもった彼は、最も現代的なSMの表現者といえるのかもしれない。

一方、前述の中村京子や小原譲に代表される純粋なアメリカン ・ボンデージ派の作品もインディーズビデオでは根強い支持を得ている。ノンヌード 、ノンセックスをポリシーとするこうしたビデオを大手AVメーカーが発売することは まず不可能であり、少数のマニアを対象にするインディーズメーカーだからこそ成り 立つわけだ。マニアの嗜好の細分化に大手メーカーが対処しきれなくなっている現状 から、インディーズビデオの隆盛はまだ続きそうだ。ただし、これらのビデオの作品 的なクオリティは必ずしも高くはないことを付け加えておく。

興味深いのは、ここで紹介した「SMビデオのニューウェーブ」たちのほとんどのボンデージワークが縛りの様式美にこだわっていないという点だ。目的はあくまでも拘束であり、どう縛るかではない。難しい縛り方や、大げさな道具はあまり登場しないのだ。

「だって亀甲縛りって、リアリティがないでしょ。女の子が本当に抵抗してたら縛れっこない」(中村京子)
「縛りは、もう伝統芸能だよね。ちゃんと練習しないとできない。それだったらビニールテープでやっちゃった方がラクだし現代的」(ゴールドマン)
こうした発想自体が彼らを過去の日本SMの流れから切り離している。むしろ最近流行のアズロ系ボンデージの方が、様式美と細部へのこだわりから「縛りSM」と近い ものがあるのではないだろうか。
どっちにせよ90年代のSMは情念とは無縁の世界だといえそうだ。


中村京子
言わずと知れた超ベテラン巨乳モデル。たまたまアメリカのボンデージ誌に投稿写真が掲載されたのをきっかけにボンデージビデオを自主制作することになったという。これまでに自らのレーベルMBDから「BONDAGLIFE」シリーズを4作発表している。新作はまだ10分ほどのパートしか撮っておらず、完成の見通しはたっていないとのこと。
小原譲
小原譲プロダクションのビデオは、妙なエキゾティズムにあふれている。ノンヌード、ノンセックスというポリシーを守り、クロウ・スタイルのアメリカン・ボンデージの世界を忠実に再現しているのだが、なぜかハリウッド映画に出てくる日本といった感触が感じられるのだ。なるほどアメリカでも好セールスをあげているというのもうなずける。
松下一夫
日本で最もSMを広めたのは団鬼六でも村上龍でもなく、永井豪にほかならない。「けっこう仮面」あたりを連想させるオタッキーな世界に固執する松下一夫のビデオは、若い世代に絶大な支持を得ている。どの作品も、くすぐりと電気アンマのみのプレイと「白状しろ」オンリーの台詞が繰り返されるだけ。この徹底したワンパターンが魅力らしいが。
ゴールドマン
AV界のジョン・ライドンというに相応しいゴールドマン。87年のデビュー以来、次々と新境地を開いて来た彼にも、そろそろ疲れが見えてきたか?問題は彼に続く新世代が生まれていないことだ。
佐藤義明
佐藤義明のプレイは実にオーソドックスだ。しかし、不思議なことにそのオーソドックスなビデオが今まで存在しなかったのだ。自画撮りのため冗長な部分もあるが、SMマニアが見たかった「普通のSMビデオ」とはこんなものだったのではないだろうか。また彼にはスカトロにこだわったシリーズもあるがこちらはかなりエグイ内容である。


*TOPAZ Vol.6(英知出版 1994年) 特集「ボンデージ・ジャパネスク」に書いた原稿。「TOPAZ」はアート、サブカル色の強いかなり意欲的なSMグラフ誌だった。文中でも触れているインディーズビデオの聖地「タイヨー 高田馬場店」は今年閉店した。

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