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ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

約束の地5 声優のライブに行く(03年04月)

 アニメ方面と全く縁のない生活をしている人間にはピンと来ないのだが、声優の人気というのはまだまだ根強いらしい。僕などは、せいぜい宮村優子とか國府田マリ子くらいしか名前は知らないのだが(しかも、顔どころか、何の声をやってる人かも知らない)、人気声優というのは、ずいぶんたくさんいるらしい。しかも今の声優はアイドル的要素が必要なため、ルックスもいいと聞く。僕らが知ってる第一期声優ブームの頃は、声優といえばオジサンとかオバサンばかりだったけどなぁ。神谷明とか富山敬とか、麻上洋子とか…。ああ、懐かしい。
 高田馬場のライブハウスで、声優のライブがあるのだと、本誌編集のM氏が教えてくれた。僕の事務所も、本誌編集部もそのライブハウスのすぐ近く。こりゃ、近くていいやと、次の「約束の地」の取材をそのライブに決めた。
 さっそくM氏が前売りチケットを入手して来てくれたのだが、2週間以上前だというのに、すでに整理番号は3百番台。前回の地下アイドルのイベントが、関係者含めても30人弱しか観客がいなかったのと比べれば、かなりの人気だといえよう。
 氷上恭子増田ゆき小島幸子の3人によるユニットでシフォン(Chiffons)というらしい。
氷上恭子は知ってるけど、あとの二人は知らないなぁ」
とM氏。僕はその氷上恭子すら知らない。事前にインターネットで検索してみる。氷上恭子のプロフィールを見つけた。出演作からして「愛天使伝説ウェディングピーチ」「十二戦支 爆裂エトレンジャー」と、聞いたこともないようなアニメばかり。「ドラえもん」というのもあったが、劇場版のオリジナルキャラらしく、これもピンとこない。そして声優業界の決まりらしく、年齢が表記されていないのだ。ううむ、これじゃイメージがわかないな。
 そして当日。待ち合わせたM氏とライブハウスに入る。料金は前売りでも当日でも4千円。けっこうな金額だ。開演30分前だが、すでにかなりの客が入っている。いかにもアニメおたくという感じの20代半ばと思われる男子がほとんど。だが、それほどマニアックな匂いはしない。やや服装が地味目かなと思う程度だ。なかなか可愛い女の子の姿もちらほら。会話の内容から察すると彼女たちも声優、もしくは声優のタマゴらしい。なるほど、今は可愛い女の子じゃないと声優にはなれないんだなぁ。
 会場内の物販ブースで、シフォンのニューアルバムを売っていた。今日は、このアルバムの発売イベントというわけだ。参考に、とCDを購入。生写真がついてきた。さすがはアイドル。で、その写真を見て思わず、つぶやいてしまった。
「え、おばさん…?」
M氏が慌てる。
「だめですよ、それは禁句」
最近の声優=若くて可愛い子、だと思い込んでいたのだが、その生写真に写っている三人の女性は、ごく普通のOLとか主婦とか、それくらいのルックス。お世辞にも、とびきり可愛いとは言い難い。それなのになぜ、この女性たちを見に、これだけ多くの客が? 君たちは、シフォンに何を求めてるんだ?
 そんな疑問符を抱えこんでいるうちに、客はどんどん増えていく。会場のライブハウスはキャパが400人クラスだが、すでにオールスタンディングでスシ詰め状態。しかも、みんな手にペンライトを持っている。
 やがて、客席の照明が落ち、ステージにはバンドメンバーがセッティングを始める。スタジオミュージシャンっぽい風貌の人もいれば、ビジュアルバンドっぽい風貌の人もいる。
 アップテンポの曲が始まった。観客は一斉にぴょんぴょんとジャンプし始める。ライブハウスが揺れる。そしてステージにシフォンの三人が登場すると、歓声がわきあがった。
「さっちゃ〜ん、萌え〜っ」
などと、コールも飛ぶ。
 客席だけを見ていたら、本当にアイドルのコンサートのようだ。しかし、ステージにいるのは、いい年齢の女性3人。いや、ま、もちろん、可愛い服も着ているし、元気がよくてなかなか魅力的に見えるのだが。
 曲は絵に描いたようなガールズポップ。歌もそれなりに上手い。しかし、単なる歌手のグループとして見れば、観客をこれだけ熱狂させる要素は無いだろう。となれば、キャラクターに魅力があるということだ。この人が歌っているというところに価値がある、と。この構図は、明らかにアイドルとファンのそれだ。
 曲が終わり、MC。3人がしゃべりまくる。軽快なやりとり。さすがに達者だ。甲高いアニメ声で、たわいもない話題をわいわいとおしゃべり。女という字を三つ並べると、姦しいという漢字になるのだということを再確認。
 彼女たちの話のひとつひとつに、客はうなずき、笑う。○○さんが、などと説明なしに人名が度々登場する。その度、客も笑う。どうやら、声優仲間の名前らしい。ここにいる客は、その名前をちゃんと知っているのだという共通認識。
 曲は、実にバラエティに富んでいる。「野ばら」をジャジーに歌ったかと思えば、ハードロック風、はたまたボサノバ調。そして氷上恭子が咲くし作曲したという「なんでかな」というコミカルな曲では、詞のギャグでいちいち笑いが起こる。
 MCで、年齢の話題になる。三十歳過ぎ、なんて話も出る。あれ、声優に年齢の話はご法度じゃないかとも思うが、本人たちは特に気にしていないのか。平気でネタにしてしまっている。しかし、オタク系の人というのは、やたらと若さ(幼さ)にこだわるくせに、声優は年齢がいってても許すのかなぁと、疑問がわいてくる。ま、だから声優たちもプロフィールから年齢の表記を外しているんだろうが。
 ライブが進んでいくうちに、これはラジオ番組の公開収録なのでは、という気持ちになって来た。どうやら客は曲よりも、MCの方を楽しんでいるようなのだ。これはいわばリスナーの集い。おしゃべりの合間に曲をかけているような。
 そう考えると、この妙に一体感のある雰囲気の秘密がわかってくる。ここには、いつもラジオを聴いている常連さんたちが集まっているのだ。シフォンはアイドルではなくて、パーソナリティなのだろう。パーソナリティとしてリスナーから愛されているのだろう。それは、実際にシフォンがラジオ番組をやっているせいもあるだろうが、もしやっていなかったとしても、関係性においてはそうした構図なのではないか。やっぱり、客があの3人を純粋にアイドル視しているとは思えないのだ。
 あとで調べてみると、声優のラジオ番組というのは非常に多い。週に30本以上の番組があるようだ。声優の専門誌でも、アニメの新番組よりも、ラジオの新番組の情報の方が大きく扱われているのだ。
 もはや消えうせてしまったかと思っていたラジオ・カルチャーが、こうした形で生きていたのかと気づく。僕も小学生や中学生の頃はラジオにかじりついていたっけ。生島ヒロシ小島一慶のイベントにも足を運んだこともあったっけ。
 出演者とリスナーとの距離が近く感じられるラジオ番組には、テレビ番組とは違った魅力があったのだ。声優人気というのは、そんなラジオ・カルチャーとも密接なつながりがあるのではないか…。満員の客に押しつぶされながら、そんなことを考えた。

●「お宝ワイドショー」2003年6月号(コアマガジン)「約束の地」の第五回。声優人気ってのは、未だによくわかんない。男性声優アイドルってのが、また更によくわからない世界で…。
ちなみに、シフォンが最近リリースした新作はコントCDなんだそうです…。

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