ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

「もしも朝の通勤電車ががっついたベロキスをするカップルで満員だったら」

 二村ヒトシといえば痴女モノの代表的監督として知られることが多い。しかし、二村氏は「僕の痴女は、痴女じゃない」と言う趣旨の発言を何度か繰り返している。「僕の作品の女性は、痴女じゃなくて、発情した女性なんだ」と。
 二村ヒトシの新作「もしも朝の通勤電車ががっついたベロキスをするカップルで満員だったら」は、この「発情」というテーマを真っ向から取り組んだ傑作である。快感に悶える女性を描いたAVは腐るほどあるが、発情に悶える女性をここまでストレートに描いたAVは、もしかしたら初めてかもしれない。
 内容は極めてシンプル。朝の通勤電車の中で、イチャイチャしているバカップルがいる。カップルの行為はエスカレートしてディープキスまで始める。それを見ていた他のカップルもつられてキス。発情は伝染してゆき、我慢できなくなった女が連れの男にキスをせがみ、相手のいない女は見ず知らずの男にキスを頼み込む。2時間、15組のカップルがひたすらキスしまくるというものだ。15人もAVモデルが出演しているのに、裸になり、セックスまで見せるのは、ラストにたった一組だけ。後はずーっとキスだけである。
 実は筆者もこの作品のお手伝い(笑)をしていて現場に居合わせたのだが、いやぁ、すごかった。AV現場はずいぶん見てきたが、こんなに濃密なフェロモンが渦を巻いていた現場は初めてだった。唯一カラミを見せるプロの男優が(男性は、ほとんどが応募で集められたキス好きの素人)、そのあまりの妙な空気に当てられてしまい、ぶっ倒れたほどなのだ。
 二村監督によれば、本当にセックスが好きそうな女を面接で選んだという。そしてそのセックス好きな女たちに、キスだけでセックスをさせなかったわけだ。一般的にキスはセックスのイントロダクションとされている。前戯の前戯みたいなものだ。そこで寸止めである。それが延々と続く。男も女も寸止め。それ以上できないもどかしさが15組分、狭い車内に充満し、どんどん興奮がエスカレートしていく。感極まった泣き出してしまった女が3人いた。キスだけで射精してしまった男もいた。どんなに過激で濃密なセックスを見せた現場よりも凄まじいフェロモンが立ち上っていた。
 そんな異常なまでのテンションが、作品にもしっかりと焼き付けられている。ディープキスする周りのカップルに当てられて、我慢できなくなり、見ず知らずの男にキスをせがむ女の表情が恐ろしくエロいのだ。キスしながら涙ぐみ、男の頭を抱え込んで唇を離そうとしない女の表情がとてつもなくエロいのだ。
 これはキスモノ、接吻モノAVではない。
 90年代初頭にFAプロが、その濃厚な接吻シーンだけを集めたオムニバスを発売して以来、アロマ企画などのフェチ系メーカーでもキスAVは作られ、さらに痴女ブーム以降はディープキスはAVの中の重要な見せ場として定着した。二村監督の「美しい痴女の接吻とセックス」シリーズのヒットは、その大きなターニングポイントになった。しかし、これまでの接吻モノで描かれたのは、キスという行為のエロさだった。唇と唇、舌と舌が絡み合う様は、性器と性器の結合を思わせる卑猥さがあった。ディープキスはモザイク無しで描ける唯一の性器愛撫だと言ってもいい。
 しかし、この作品で描かれるキスは、キスという行為そのものよりも、その行為によって燃え上がっていく女の発情だ。そして、それは無修正の挿入行為なんかよりも、ずっと破壊力のあるエロだった。

 現在のAVが直接的なエロを追求する流れの中にあるとすれば、二村監督のこの作品は明らかに時代に逆行している。しかし、ここにもうひとつの新しいエロの流れが生まれるのではないかと筆者は思うのだ。だって、本当にエロいんだよ、キスって。

 そしてもうひとつ、独特の密室感が特色だった二村ヒトシの作風が、ここではずいぶんとオープンなものになっている。これが今までの二村ファンにどう受け入れられるかはわからないが、とりあえず二村ヒトシがこの作品でネクストステージに進んだことは間違いない。

サンプル動画はこちら。

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