ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

約束の地4 地下アイドルのバースディライブに行く(03年02月)

 地下アイドルと呼ばれる女の子たちがいる。
「テレビなど巨大メディアにあまり登場せずライブ活動や撮影会を中心に頑張っているアイドルたちをいいます。インディーズバンドのアイドル版ということもできるでしょう。『地下』とはライブ会場が主に地下にあることから来ています」
というのは、とある「地下アイドル」のイメージビデオのパッケージに書いてある説明文。まぁ、「地下」はライブ会場うんぬんよりも、マイナーな日の当たらないという意味合いの方が強いんだろうが。
 このイメージビデオを出している「地下アイドル」が、H・Mである。彼女はどちらかといえば蔑称的なニュアンスである地下アイドルを自ら名乗っている。
 そのH・Mのバースディライブが渋谷のライブハウスで行われるという。日曜日の午後2時からと7時からの二部制。会場のライブハウスは、「地下アイドル」の定義とは外れて、地上7階にあった。
 日曜の昼下がり、編集M氏と二人で会場に足を踏み入れる。ライブハウスというより、ライブもできるバーといった店内には、既に客が集まっていた。その数、30人弱(数えてみると、純粋に客といえそうなのは、僕らも含めて24人だった)。まぁ、テーブルや椅子が出ているので、それなりに客は入っているように見えるのだが。
 集まっている客からは、見るからに濃い香りが漂っている。これまでこの連載では、様々なマニアの集まるイベントへ出かけてきたが、間違いなく今回の濃さはズバ抜けている。単に服装が地味といった外見的なオタクっぽさだけではない特殊なムード。年齢層が高そうなあたりも、その印象を強めているのかもしれない。客のほとんどが顔見知りらしく親しげに会話を交わしている。
 誰もが笑顔だった。ああ、ここは本当に約束の地なんだな、と感じる。僕ら異教徒には、まったく入り込めない幸せな空間がそこにあるのだ。
 しばらくすると、その場の中心的に見えた短髪の男性が、なにやらピンク色の物体を取り出した。巨大なウサギの頭部だった。さらにピンク色の服のようなものを取り出し、身につけていく。それはウサギの着ぐるみだったのだ。
「お、ダイちゃんだ」
周囲から声が飛ぶ。そのどうやらそのウサギの着ぐるみは、この手のアイドルイベントではお馴染みの存在らしい。異形のウサギの登場で、濃いムードがさらに盛り上がってきた。
 そして、いよいよH・Mが登場する。ボアのついた真っ白なドレスに、ティアラ。お姫様のような正統派アイドルファッションというところか.
*1しかし、彼女が登場しても、場内割れんばかりの拍手、とはならなくて、やや反応がクールだったのが意外だった。
 ライブといっても、既存の曲をカラオケテープをバックに歌うというもの。浜崎あゆみのバラードからスタート。歌い上げる系の曲でも、なかなか聴かせるのは、それなりに歌唱力があるのだろう。ただ、こういう狭い場所でカラオケバックだと、カラオケボックスでの上手な友達の歌レベルにしか聴こえない。
 globe、今井絵理子と曲は進んで、渡辺美里の「マイレボリューション」になると、客も一緒に口ずさみ始める。やはり、客の年齢層は高い。
 MC。慣れていないというか、ずいぶんおどおどした雰囲気。客からのつっこみにも、いちいち答えている。まるで、クラスメートだけがお客のアマチュアバンドのようだ。このあたりの密室感、親近感が地下アイドルのライブの醍醐味なのだろうか。
「今日はいっぱい曲を歌います。37曲!」
このMCに、僕と編集M氏は顔を見合わせた。え、37曲も? 失礼ながら彼女に興味のない人間には、拷問のようなものだ。だいたい予定の1時間45分内に37曲も歌えるのか? しかし、観客は事前に知っていたのか、驚きの声は上がらない。
 H・Mという子、元々沖縄アクターズスクールに通っていたり、一度はCDデビューしていたり、地下アイドルというわりに歌手志向が強いらしい。あまりMCも入らずに、ライブはどんどん進む。
 MANISHだのヒステリックブルーだのの、比較的新しめの曲と、松田聖子や浅香唯などの昔のアイドルの曲を混ぜた選曲。前者が本人が歌いたい曲で、後者がファンサービスということか。途中、プロダクションの名物社長N氏がピアノで伴奏したり、バースディケーキのロウソクを吹き消したりなどのアトラクションもあった。
 狭い会場で30人足らずの観客。ファンにしてみれば、これほどアイドルを近くで(最前列など1メートルも離れていない!)見られるというこの上ない環境なのだが、客の盛り上がりはそれほどでもない。一瞬たりともH・Mから目を離さないぞといった緊迫感もない。ずっと目を逸らしっぱなしの客も多い。もっとも、あれだけ近くだと、目が合うと気恥ずかしくなってしまうのだろうが。
 初公開だという唯一のオリジナル曲「ギリギリHeartBreak」でライブは終了。37曲というのは第二部とあわせてということで、昼の部では全18曲だった。失礼ながら、胸をなでおろす僕とM氏。
 その後、イメージビデオ*2を買った人はH・Mとツーショットで写真を撮ってもらえるというサービスがある。写真を撮ったファンひとりひとりに両手握手するH・M。
 なんだか、みんなでアイドルごっこをしているようなイベントだった。アイドル役を演じる女の子と、アイドルファン役を演じる男たち。確かに客たちは楽しそうなのだが、H・Mのライブを見るのが楽しいというよりも、アイドルファンを演じるのが楽しいといった感じなのだ。
 そしてH・Mも、またアイドルを演じるのが楽しそうだ。みんな揃っての集団イメージプレイ。いや、ここにいる全員が楽しそうなのだから、楽しめなかった部外者が文句をつける筋合いはないのだけれど。

●「お宝ワイドショー」2003年4月号(コアマガジン)「約束の地」の第四回。雑誌掲載時は地下アイドルを実名で書いたら、彼女のサイトで話題になって本人が傷ついていた。一生懸命にやってるのに「アイドルごっこ」と言っちゃは、そりゃ傷つくか。ごめん。でも正直な感想なんですよね。ちなみに彼女は2004年4月4日を持って引退してました。今は何やってんだろ?
 

*1:この日は正統派アイドル風だったが、いつもはヘソ出しらしい。

*2:ビデオ(5000円)には、生写真とCD−Rの写真集と、2ショット撮影券と手づくりチョコが付く。イメージビデオは、セミヌードショットもある過激なもの。

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