「生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術」(泡坂妻夫 新潮文庫)
表紙には大きく「取り扱い注意」の札の絵が書かれ、「『消える短編小説』入ってます!」の文字。そして帯には、「お願い。はじめは各頁を切り開かず、必ず袋とじのままお読み下さい。」のコピー。
そう、この本は、16ページごとに袋とじにされていて、そのまま読むと25ページの短編小説。しかし、袋とじを切り開くと、まったく別の194ページの長編小説になるという凝った仕掛けになっているんですね。
作者はマジシャンとしても活躍した推理作家・泡坂妻夫。本作でもマジックが重要なテーマとして使われています。そしてこの小説自体が、マジックのような構造を持っているんですね。
短編小説として使われる25ページが、長編小説の一部として取り込まれると、その文章が全く別の意味を持ち、元のストーリーはすっかり消えてしまう。なるほど、これは確かに「消える短編小説」です。なんという緻密な計算の上に書かれているのでしょうか。
もともとは20年前の1994年に発表され、幻の小説と言われていたものが、今年になって復刻されたそうです。
この本の面白いところは、袋とじを切り離してしまうと、もう元の短編小説を読むことが出来ないという点です。ご丁寧に袋とじは切り離すと、どこが綴じられていたかわかりづらくなるようになってます。つまり、古本を買ったり、借りたりすると、この本の面白さは味わえないというわけです(まぁ、やろうと思えば16ページごとにのりづけするなり、コピーするなりすればいいんですけど……)。さらに、この二編の小説を常に読みたいとするなら、二冊買わなければならないのです。
ううむ、紙ならではの面白さを感じさせてくれる一冊です。こういうトリッキーな方法というのも、紙の本が生き延びていくひとつの道だなぁと実感しました。
ただ、小説としては、正直それほど面白くなかったかな……(笑)。まぁ、それは贅沢というものですね。絶対に映像化できない文章ならではの醍醐味は十分堪能させていただきました! この驚きを体験できて550円っていうのは、安いと思いますよ。