ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

エロ業界世代交代

 エロが、サブカルの代表になってしまったのはいつからなのだろう。昨年末に、週刊SPA!で「サブカルチャー世界遺産」なる企画をやった時に、僕の担当したアダルトビデオのページは、その特集の巻頭を飾っていた。驚いた。
 僕はエロというものは、サブカルにおいては傍流というか、色物として末席に加えられているような存在だと思っていたのに、いきなり巻頭。おいおい、AVがサブカルの顔でいいのかよ。
 しかし考えてみれば、今の書店のサブカル系コーナーで幅をきかせているのはセックス関係の本だし、サブカルの牙城ともいえるトーク・ライブハウス、ロフトプラスワンでは、毎月何本もエロ関係のトークショーが行われている。例えば岡崎京子のようにエロ漫画からサブカルへ巣立っていくのではなく、町野変丸のようにエロのままでサブカルとして認知される、そんな時代なのだ。既にエロメディアは隠れて見るものでは無くなっている。

 こうなってくると、そこで働いている人間自身のエロ業界に対する認識も変わってくる。エロとはあくまで日陰の存在であると考えていたかつての世代とは違って、最近業界に入ってきた若い世代には、エロに対するコンプレックスがない。
 本来エロ業界というものは、好き好んで入ってくるものでは無かった。ひょんなきっかけで流されてくる場所だったのだ。たまたま知り合いがこの業界にいた、とか、間違えて、もしくはダマされて働くハメになり、入ってみたら意外に面白いもんで、ズブズブとのめりこんでしまう。それが定番パターンだった。

 しかし、最近では、自分から積極的に入ってくる人が増えているようだ。象徴的なのがAV業界。バクシーシ山下カンパニー松尾のように、サブカルの文脈でも語られる監督の出現が大きな要因だろう。特にカンパニー松尾のロック的な叙情にあふれた表現は、若い世代に強い影響を与えた。
 そのせいか若手が育たないといわれていたAV業界でも20代の監督が少しずつ台頭し始めている。そのほとんどが、カンパニー松尾の影響下にあるといっても過言ではないだろう。どの若手監督の作品を見ても松尾の影がちらつく。具体的にいえばビデオクリップのような凝った映像エフェクトや編集、思い入れの強いテロップの多用である。しかし、なによりも、かっこいいAVを撮ろうという意志が感じられることが、それまでの世代のAV監督との大きな違いだ。


 で、もうひとつの大きな違いが、彼ら自身のルックスだ。ルックスというよりキャラクターといった方がいいかもしれない。パッと見には、バンドのお兄ちゃんというか、ストリート系というか、ようするに普通にかっこいいのである。いや、前の世代の監督がかっこよくないといっているのではない。えーと、その、つまり、これまでの監督たちは、やはり文化部系の匂いがした。はっきりいってしまえば、若い頃はあんまりモテなかっただろうなぁ、という感じがした。そのルサンチマンが創作の原動力になっているような印象があったのだ。

 しかし、今の若手監督たちは、普通にかっこのいいお兄ちゃんたちだ。昨年末に、V&Rプランニング(松尾、山下も社員として長年籍を置いていたAVメーカー)の忘年会で会ったインジャン古河や望月英吾、竹本シンゴら若手監督も、みな一様にイマ風のワカモノ的にかっこよく、同席していた企画モデルたちになつかれていた。AV監督がモデルになつかれるのは、当たり前だが、そのなつかれ方が、ヤリコンとかそういう感じなのだ。ごく自然なイチャつきとでもいえばいいのか。見た目にもよく似合っていたし。こうした被写体(AVモデル)との距離感は、それまでのAV監督にはなかったものに思う。

 エロがサブカルの代表として認識されている時代に育った彼らには、エロを仕事にしているというコンプレックスもないだろう。ルサンチマンの無い彼らのそうしたスタンスは、確実にエロの表現を変えていくと思うのだ。今のところは、まだまだ業界を一変させてしまうような才能は現れていないようだけれど。

 女の子たちのセックス観が変わってきていることは、よく論じられるが、当然それと同じことが男の側でも起きている。セックスが貴重なものだという幻想の上になりたっていたエロ業界は、これから数年で大きく変わらざろうえないだろう。
 ハダカを見せること、セックスを見せることにあまり抵抗のない女の子を、セックスには不自由していない男が撮るAV、と書くと何だか薄っぺらい作品になりそうだけれど、僕はこの流れを否定する気はない。満たされた世代だからこそ描ける表現もあると思うのだ。ロックだって、エレキを持っているだけで不良と言われた時代の音楽と、状況的には満たされている(はずの)今の音楽と、どっちがいいかなんて簡単にはいえないわけだし。

 いずれにせよ、エロの作り手も受け手も世代交代が進んでいくわけで、その在り方------何がエロなのか------が変貌していくことは間違いない。僕らのような30代以上の人間が、全く興奮できないようなものがエロの主流になっていくのかもしれない。それよりも、エロメディア自体が滅びてしまうかもしれないんだよなぁ。最近の若いヤツって、AVもエロ本も見なくなっているらしいし。

*「BUZZ」(ロッキングオン) 2000年3月号 「SEX,BRAIN,ROCK'N ROLL」第一回より。 
 21年前、「BUZZ」という音楽雑誌に、なぜか連載することになったエロ業界コラム。この連載自体が、この原稿で「エロがサブカル?」と、僕が戸惑っていた現象のひとつだったと思う。その後「はずかしいおしごと」「おはずかしいおしごと」とタイトルを変えつつ雑誌が無くなるまで3年間も連載させてもらった。
 そうだ、この頃はエロはサブカルだったのだ。そしてサブカルも元気がよかったのだ。
 21年という歳月は思っている以上に大きいな。ここで「若手」と書いた人たちも、みんな大ベテランになっているし。

Amazon 【最大70%OFF】ミュージックセール