ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

IT革命はAV業界の黒船か?

 ここのところ、毎日のようにデジカメによるハメ撮りをしている。会員制のアダルトサイトを始めるためだ。旧知の業者から持ち込まれた仕事なのだが、これが意外なほどにギャラがいい。AVよりも雑誌よりも、ずっと美味しいハナシなのだ。その業者は、他にもいくつも似たようなサイトを運営しているのだが、恵比寿の一等地に何フロアも事務所を持っていて、何とも景気がよさそうだ。構造不況に陥っているエロ雑誌業界やAV業界で働いている身から見ると羨ましい限り。何だかんだ言っても、まだまだ時代はITですか。

 かつて裏ビデオの存在がVHS・ベータ戦争の勝敗に大きく影響したという(裏ビデオはなぜかVHSモノばかりだった)伝説があり、それ以降、新メディアを普及させる牽引力となるのはアダルトソフトだ、と語られることが多い。個人的には、その意見には少々異議もあるのだが、ま、インターネットの世界においてもアダルトモノの影響力は強く、その普及に一役買ったことは事実だろう。無修正画像が見たいがためだけにネットを始めた人というのは少ないだろうが、いくつかの理由のひとつとして、「アダルトモノも見れるしぃ」という思いがあった男性は多いはずだ。

 しかし、このネットの存在が既存のアダルトメディアに与えた影響は大きい。特にエロ雑誌の没落の原因のひとつとして、ネットに「客を取られた」ことが上げられるだろう。なにしろ本屋で恥ずかしい思いをしてエロ雑誌を買わなくても、無料でいくらでもエロ画像もエロ情報も得られるのだから。ただでさえエロ雑誌は中小書店の激減により、売っている場が少なくなっている(現在、雑誌販売のメインであるコンビニと大型書店にはエロ雑誌は置かれていない)のだ。マウスを数回クリックするだけで、いくらでも入手できるエロコンテンツを、わざわざ町のアダルト専門書店にまで足を運んでまで買うマニアックな読者は、やはり少ないだろう。

 問題は画像などが雑誌からの無断転載が多いということだ。無修正画像にしても、裏本をスキャンしたものがほとんど。元になるコンテンツを作っている側の人間としては、やっぱりちょっと複雑な気持ちになる。撮影だってタダじゃないし、苦労してんだぜー。

 この辺の関係は、音楽業界におけるナップスターとか、出版業界におけるブックオフの存在に似ていると思う。それが将来的にはユーザーのパイを広げることになるかもしれないが、そんな悠長なことはいってられないほど、業界のお尻には火がついているところとかも、同じだし。

 ところで来年あたりからインターネットのブロードバンド時代が本格的に到来しそうだ。政府が昨年発表した「IT国家基本戦略」によれば、2005年までに3000万世帯がDSLなどの高速常時接続、1000万世帯が光ファイバーなどの超高速常時接続環境を実現させるんだそうだ。ま、この目論見が絵に描いたモチなのかどうかはわからないが、とりあえずケーブルTV回線やADSLは確実に広がっているし、無線や電力線による新しい試みも実用段階に来ている。

 ブロードバンド時代と来れば、やはり動画配信が目玉になるだろう。アダルトで動画とくれば、つまりAVである。インターネットでAVが配信される時代がやってくるのだ。もちろん今でも画質の低いムービーはダウンロードできるのだが、ブロードバンドともなれば、VHS以上のクォリティでの配信が可能になるだろう。これは、つまりビデオレンタルショップの死を意味している。

 これまでAV業界はレンタルショップと密接な関係を持っていた。いわゆるAVはレンタルショップ専用として制作されている。そしてショップへビデオを卸しているのが問屋。AVにおけるヒットというのは、何人のユーザーが借りたかということではなく、問屋がメーカーから何本仕入れてくれたか、ということになる。AVメーカーは、どうしてもユーザーよりも問屋の方を向いた制作をやらざろう得なくなるのだ。問屋主導の弊害である(こうした構造に異議を唱えた形で90年代半ばから台頭して来たのが、インディーズAV=セルビデオだ)。

 ブロードバンドによる動画配信時代がやってくれば、問屋もショップも不要になり、メーカーは直にユーザーにコンテンツを配信できる。音楽の場合、ジャケットも持っていたいというパッケージ商品に対する購買欲も高いだろうが、AV(もはやビデオではないけれど)の場合は、もともと中身だけをレンタルしていたわけで、コンテンツのみの販売にも抵抗はないだろう。むしろ一回見れば十分、手元には置いておきたくないというユーザーが大半だろうし。

 80年代の黄金時代からすれば、どうにもパッとしないムードが続くAV業界も、ネットでのダイレクト配信時代がくると、また息を吹き返すかもしれない。少なからず業界に関わっている人間としては、ついそんな期待を抱いてしまう。今年三月からブロードバンドにも対応したAVのスクリーミング放映サイト「Webee」も登場した。本格的なAV配信時代は、もうそこまで来ているのだ。

 しかし大きな問題もある。コピーである。雑誌の静止画と同じように、ネット上に無料のコピーが溢れた場合、有料のコンテンツを欲しがるユーザーがいるだろうか? さらに無修正の裏動画も容易に入手できるようになるだろう。それでも、修正済みコンテンツに代金を払ってくれるユーザーがいるだろうか?

 ブロードバンドでの動画配信はAV業界にとっては、正に黒船だ。その後、業界が再び盛り上がるのか、それとも完膚無きまでに叩きつぶされてしまうのか、まだわからない。

 ただひとついえるのは、無料でコピーが溢れることで、一番被害を受けるのは、モデルの女の子たちなのだ。僕らは「少部数のマニア誌だから」とか「セルビデオだから見る人の数は限られてるよ」などと言って女の子を安心させて撮影している。それがネット上で無断で何十万もの人にダウンロードされてると、彼女たちが知ったら…。

*「BUZZ」(ロッキングオン) 2001年1月号 「SEX,BRAIN,ROCK'N ROLL」より。
ちょうど20年前、こんな話をしてたわけです。

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