「みのり伝説」から90年代のライター事情を思い出す
この記事は「書き手と編み手の Advent Calendar 2022」に参加しています。
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1994年から1997年まで「ビックコミックオリジナル」に連載されていた尾瀬あきらの漫画『みのり伝説』。フリーライターの実態をテーマにした漫画は意外に少なく、本作がこのジャンルの代表作と言ってもいいでしょう。
1994年といえば、もう28年前。今、読み返すと時代の空気の違いを実感します。
主人公の杉苗みのりは28歳で、4年間努めた小さな出版社を辞めてフリーライターとして独立するのですが、「だってあたしたちもう22よ! このまま結婚もしないで25とかになっちゃってさぁ、まわりはもうみんな結婚して子供もいるのに自分だけひとり寂しく働いてるとかそうなったらどうする?」なんてセリフも出てきて、28歳のみのりは完全に「行き遅れ」扱いなのです。90年代前半は、まだそんな時代だったんだっけ……。
そして当然、出版業界も全く違います。インターネットは(一般社会には)まだ無く、雑誌はマスコミの花形でした。
実は僕がフリーライターとして独立したのも1994年で27歳だったので、みのりとほとんど同じ状況。男性と女性の違いはありますが(あと僕は主にエロ本業界だったけど)、色々と体験は重なります。
歴代エロ本総選挙 結果発表!
『日本エロ本全史』を出したということもあって、ネットで「歴代エロ本総選挙」なんてものを実施してみました。といっても、TwitterとFacebookで個人的に投票を呼びかけただけなんですが、100人以上の人が投票してくれました。
では、第一回歴代エロ本総選挙第一位は、11票を獲得した
『バチェラー』
(大亜出版/ダイアプレス)
もう初っ端から圧倒的に独走という感じ。やはり巨乳冬の時代から、ひたすら巨乳にこだわってきた故の読者の思い入れの強さでしょうか。今年で創刊42周年というエロ本としては最長の歴史を持つ偉大な雑誌です!
続いて第二位は、8票獲得した
『ウレッコ』
(ミリオン出版)
持って歩いても恥ずかしくない日本で一番オシャレなエロ本と呼ばれた雑誌です。そのアートワークの素晴らしさといい、一色ページの隅々にまで気の配られた丁寧な編集といい、エロ本の鏡ともいうべき存在です。
「べっぴん、すっぴん、デラべっぴん」なんて歌もあったほどにメジャーな雑誌。ある意味で、誰もが考える典型的なエロ本だったのではないでしょうか。華麗な巻頭グラビア、過激かつアイディアにあふれる企画グラビア、そして読み応えのある記事が満載の一色ページ。これぞエロ本!
四位以下はこんな感じになってます。
四位(6票)『スーパー写真塾』『ビデオボーイ』
五位(5票)『アップル通信』『写真時代』『投稿ニャン2倶楽部Z』『ビデオ・ザ・ワールド』
六位(4票)『映画の友』『トップテンメイト』
七位(3票)『オレンジ通信』『クリーム』『Don't』『ベストビデオ』
2票獲得
『GORO』『写楽』『ストリートシュガー』『投稿ニャン2倶楽部』『ビデオメイトDX』『Billy』『Peke』『YO!』『ロリポップ』
1票獲得
『アップル写真館』『ウィークエンドスーパー』『エロトピア』『CARトップ』『ガキんちょkiss』『ぎゃるーる』『コミックアイラ』『ザ・ベストマガジンオリジナル』『すっぴん』『ズームアップ』『千人斬り』『ちぃちゃん』『チョベリグ』『投稿写真』『TOPAZ』『ナオン』『ナンパの鉄人』『No.1ギャル情報』『熱烈投稿』『Vコミック』『プチトマト』『ヘイバディー』『平凡パンチ』『ベストDVDスーパーライブ』『別冊映画の友』『ベッピンスクール』『ポケットパンチ』『ボディプレス』『マスカットノート』『マドンナメイト写真集』『マニア倶楽部』『漫画ホットミルク』『メガストア』『桃クリーム』『ラッキークレープ』『レモンピープル』
と、まぁ、こんな結果になりました。『バチェラー』一位、『ウレッコ』二位、『デラべっぴん』三位というトップ3は、なんとなく納得できるところなんですが、「え、あれがあれより上?」「あれ入らないのか!」など意外に思うところも多々ありまして、これ、面白いので、もっと大々的にキチンとやってみたいなーという気持ちになりましたね。
「バチェラー。こっそり買いに行った。学生だったが。ファミ通と一緒にこっそり買った」
「巨乳好きなので、『TOPTEN-MATE』でした。コンビニ売りだったので、購入しやすいのも嬉しいポイントでした」
「好きなエロ本は1つに決められないのだが、一番衝撃を受けたのは『Billy』かな。こんなの出して良いのか、こんな嗜好があるのかとびっくりしたわ。大学生の頃だな」
「ロリポップ。今だに覚えてる方々がいる事に驚いた。商業誌と同人誌の間みたいなコンセプトも功奏したか、編集、マンガ家、読者の一体感が、これほどある雑誌はもう出ないだろう。ファン合宿なんてやってたね」
「アップル通信。あまり直接的ではない表紙とタイトルが逆にそそる気がする」
「TOPAZ。デザインもかっこよかったし、サブカル欄がえらい充実していた。90年代だな~という感じだけど」
「デラべっぴんですね。編集者が楽しく作っていそうで、出版とか編集執筆という仕事に興味を持ったきっかけをくれた本でもあります」
「デラべっぴんかな。500円だったし、コンビニで買えた。高校時代は回し読みしてて、誰が乱雑に扱ったか犯人探しが面白かった。同級生のマニアふじもんが屋根裏に隠してて、重みで天井がたわんで問題になった事件あったな」
と、コメントも、みんな熱くて楽しいですなぁ。
ある範囲の年齢の男性にとって、やっぱりエロ本の存在って大きいんですよ。
というわけで、ぜひ「日本エロ本全史」も(笑)。エロ本を読んで育った人には、絶対に楽しめると思いますよ!
もう高田馬場ではエロ本は買えない
昨日、高田馬場の書店「ブックス高田馬場」が閉店しました。JR高田馬場駅および西武線高田馬場駅の戸山口というマイナーな出口の近くという場所のため、高田馬場住人の中でも知る人ぞ知るという存在の書店だったのですが、僕は仕事場がこちら側ということもあって、毎朝店内をグルリと一周するのが日課になっていました。
ブックス高田馬場が無くなったことで、高田馬場駅周辺の書店は、芳林堂とあおい書店の二軒だけになってしまいました。しかもエロ本を販売している書店はブックス高田馬場だけでした。つまり、もう高田馬場ではエロ本を買うことができなくなったのです(AVショップのラムタラにはちょっと置いてあるみたいですが……)。
僕が高田馬場に仕事場を構えたのは今から18年前の1996年。その頃の高田馬場にはたくさんの書店がありました。芳林堂と並ぶ大きな書店としては、駅前の未来堂。あとビックボックスの中にもありましたし、早稲田松竹の近くにもあったはず。白夜書房の一階は、まんがの森でした。そしてエロ本も充実してたんですよ。コアマガジン直営店のコアブックスに、老舗のタイヨー。羽賀書店もあったし、さかえ通りにも一軒あったような気がします。二次元系に強い新宿書店はちょっと後だったかな。そして古本屋もたくさんあったんです。ああ、さすが学生街の高田馬場だな。そう思いましたね。
ところが、10年くらい前からバタバタと書店と古本屋が消えていき、気がついたら新刊書店が二軒だけ。古本屋はブックオフが一軒と、100円で漫画雑誌を売っているような店が一軒だけになっていました。
そう言えば、CDショップもみーんな無くなっちゃったな……。こんなことが、あちこちの街で起こってるわけですが、いや、しかしそれにしてもあの高田馬場がこんな状況になるなんて。
ブックス高田馬場は面白い本屋でした。小さな店なのですが、早朝から深夜まで営業してましたし、もらったレシートで次回は5円引きになったり、あめ玉をもらえたりとサービスも満点。なぜか鉢植えを売っていたのも気になりましたし、なんと言っても店頭にベタベタと貼られた漫画のタイトルが目を引きました。単行本の新刊が出るとそのタイトルを貼りだすんですが、もちろん人気作に限るわけで、ここで貼られると「ああ、今はこの漫画が人気あるんだな」とわかるんですね。しかも人気作は二枚、超人気作だと三枚貼られたりして、その人気具合も判断できたんですよね。下の写真を見ると、「ナルト」は6枚も貼られてますよ!
漫画・雑誌・エロ本が中心ではありましたが、奥の方には社会派の本も充実していたりして、古きよき小さな本屋でした。いつも一心不乱に読書してた店員のお姉さん、この後どうするんだろう……。
ブックス高田馬場の閉店には、自分でも意外なくらいに大きなショックを受けましたね。ああ、やっぱりもう、エロ本は、いや雑誌というものの時代が終わってしまったんだなぁ、と。
これからの編集者はもっと頭を固くしないと!
以前、「エロ本業界の厳しすぎる現状について書きました」というエントリーの中でも「現在のエロ本の読者は40~50代でネットが出来ない人が大半」という話を書きましたが、これはエロ本に限らず、一般誌でも似たような状況だと思われます。
週刊誌などは、50代以上がメイン読者なわけですが、誌面を作っている編集者はもっと若いんですね。つまり「おじさんって、こういうのが好きなのかなぁ」と若い人が想像して誌面を作っているということになります。この辺のギャップって、結構大きな問題になってるんじゃないかなぁ。
読者が自分より、ずっと年上ということを考えると、これからの編集者はあんまり頭が柔軟だとよくないのかもしれません。
「もっと頭を固くしないと!」
これが今後の編集者が心がけないといけないポイントになるのです……。
半分冗談みたいなつもりで書いていますが、実は意外に正しいのかもしれないですね。少なくとも、今、雑誌を読んでいる人は、既に先端の人ではないという事実からは、目をそらしちゃいけないんじゃないか、と思います。
総世帯の半分以上が「月に一冊も雑誌や週刊誌を買っていない」現実
また雑誌や週刊誌、書籍は4割~5割近くに留まっている。つまり仮に購入1世帯につき「1人が1誌のみ」の割合で雑誌を購入していたとしても、全世帯のうち6割近くは「一か月で1誌も雑誌を買わなかった」という計算になる。実際には週刊誌などのように定期的に買う事例が多数想定できるため、世帯単位での購入実態はさらに低いことになる。
こういうニュースを読むと、つい、それでも雑誌を読んでいる人は情報リテラシーの高い人、と思ってしまいがちですが、むしろ「取り残されちゃった人」という認識の方が正しくなっているのかもしれません。
いや、それでも僕は紙の雑誌が好きなんですけどね……。
エロ本業界の厳しすぎる現状について書きました
発売中の「創」12月号に「”冬の時代“エロ出版社に吹き荒れるリストラの嵐」という原稿を書きました。
ここ1年ほどのエロ出版業界は本当にヤバイ感じです。原稿にも書きましたが、2020年のオリンピックの東京開催決定でエロ本への規制が強まるという話がありますが、正直そこまで保たないだろうなというのが実感です。いや、もうエロ本は既に死んでいるという方がいいかもしれないですね。
多くの関係者に取材したリアルなレポートになっておりますので、興味ある方はぜひ。
しかし、この取材をしていて、本当に辛い気持ちになりました。7年前に「エロの敵」を書いた時も、エロ本業界を取材していて、その未来の無さに激しく落ち込んでしまったのですが(実はあの本、最初は一人で書くはずだったのですが、エロ本パートを書いているうちに落ち込んでしまって書けなくなり、雨宮まみにAVパートを頼んだのでした)、今回はその比じゃなかったですね。
もう、誰もが未来を見ていない。この先、エロ本が再び盛り返すとは誰も考えていない。あと何年、細々とでも生き延びられるかということしか考えていないという、完全に終わった業界であることを思い知りました。
特にキツイなと感じたのが、今、エロ本を読んでいる人は「ネットが出来ない人」だという現実です。現在、エロ本の読者の年齢層は40代から50代がメイン。そしてその大半がネットをやっていない人、なのです。だから、エロ本でネットの記事を書くと不評だと言います。
キツい言い方をしてしまえば、エロ本を読んでいるのは、保守的な情報弱者なのです。だから、何か新しいことをやってはいけないのです。
エロ本がそっぽを向かれたのは、編集者の怠慢だという意見もあるかもしれませんが、実はもうそういう時期は過ぎています。新規の読者を見込めないとすれば、いかに今の読者を逃さないようにするしかありません。となれば、新しいことをするのは逆効果です。あくまでも「保守」。これが今後のエロ本を作っていく上で心がけなければいけない鉄則となるのではないでしょうか。
そして、これはたぶんエロ本だけに限らず、あらゆる雑誌にも言えるのでしょうね。
ライターになりたいという若者がいたら
以前紹介した「日の丸電子書籍はなぜ敗れたのか」の著者、鈴木秀生氏のBlog「本とeBookの公園」の「文章で飯を食っていくということ」というエントリーを読んで、うーんと唸ってしまいました。
若者に「電子書籍業界に入りたいんですけど」と言われたことをきっかけに、電子書籍業界の厳しい現状、そして「書く」仕事についての現状と未来について考察した文章です。
かつては週刊誌では1ページの原稿料が3~5万くらいだったのが、ネットメディアでは1万2千~1万5千円になっているという佐々木俊尚氏の記事を引用し、いや、ネットメディアでは1万2千円もなかなか出せません、とさらに厳しい現状を突きつけてくれます。
いや、ホント、ネットの原稿料は安いです。ついこの間まで「出版業界って何十年も原稿料上がってないんだぜー」なんて言って笑ってたのが、ここ数年は上がるどころか下がる一方。しかし、それよりも安いのがネットメディアの原稿料なのです。でも聞いてみると、僕はキャリアがある分だけ、まだ少し考慮していただいているみたいで、若い子はもっと安かったりしているようです。
続きを読む「日の丸電子書籍はなぜ敗れたか-21st centurye Book Story」(鈴木秀生 Kindle)
電子書籍に本の未来を見出して、トーハンを退職、イーブックイニシアティブジャパン、ボイジャー・ジャパンなどで、数々の電子書籍プロジェクトに関わってきた著者による、現場から見た日本の電子書籍の歴史の記録です。「21st century Book Story」としてBlogで連載していた文章をまとめたもので、長年出版業界に関わってきた著者が初めてセルフパブリッシングした電子書籍ということになります。
著者が最初に出会って、衝撃を受けたのが2004年に松下電器産業(現パナソニック)の電子書籍端末「Σ(シグマ)ブック」。見開き液晶という個性的なスタイルのこの端末、ガジェット好きの僕も発売されるとさっそく実機を見に行ったのですが、その時の感想は「ダメだ、こりゃ」。とにかくゴツくて重くて(520g)、動作もモッサリしてて、読みづらい。しかも37,900円という価格。とても買う人がいるとは思えず、がっかりしたものですが、著者はここに本の未来を感じて、トーハンという大手を辞めて電子書籍の世界へと身を投じて行くのです。いや、これはすごい情熱だなと思いました。
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