ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

自分の「エロ」の原点を訪れる・浦和の古書店でエロ本漁り

 自分で意識してエロ本を買ったのはいくつからでしょうか? 小学校高学年の時に、「GORO」くらいは買っていたような気がしますが、本気でハードコアなエロ本を買ったのは、中学三年生の時の「SMセレクト」でした。いきなりSM! 我ながらハードコアですね。

 実家からちょっと離れた商店街の小さな小さな本屋でした。本をレジに持って行く勇気が無くて、ずっと他の本を立ち読みして、結局その日は買えなかったなんてこともあったような気がします。純真というか、気が小さかったんですね。
 当時はSM雑誌が人気でたくさん発売されていました。今よりもSMはエロの中でもっとポピュラーな存在で、ハードなエロをみたいと思ったら、SMしかない、という感じでした。

 そのたくさんのSM雑誌の中でも、僕は購入するのは「SMセレクト」一誌に絞っていました。
「SMセレクト」という雑誌は、SM雑誌ブームを巻き起こした老舗にして、最も売れたメジャーなSM雑誌なのです。最盛期には15万部も出ていたというから、驚きますね。今のアサヒ芸能より売れてるんですよ。

 でも、当時の中学生の僕はそんなことは知りませんでした。なぜ「SMセレクト」に狙いを定めたかというと、まずこの雑誌はポケット版といって、いわゆる新書版サイズのコンパクトな判型だったんですね。だから隠しやすい。中学生にとっては、親に見つからないようにするのは最重要課題。しかもSMなんてマニアックな本ですからね、発見されたら大変なことになります。その点、このポケット版は比較的隠しやすいと思ったわけです。

 しかし、当時は他にも同じサイズのSM雑誌はたくさんあったのですが、その中でも「SMセレクト」を選んだのは、裏表紙に理由がありました。他の雑誌は裏表紙にも縛られた女性のヌード写真が掲載されていましたが、「SMセレクト」だけはなぜか普通の映画の広告になっていたんですね。裏返してレジに出せば、SM雑誌だとバレないかもしれない。いや、今思えばそんなのバレバレなわけですが、当時の純真な中学生にとっては、それは大きなアドバンデージだと思ったのですよ。

 てなわけで、僕は大変な逡巡と緊張の後に「SMセレクト」の入手に成功。受験勉強もそっちのけでオナニーしまくったわけです。その時に連載されていた杉村春也先生の「白鳥円舞曲」(文庫化された時は「美姉妹・奴隷生活」に改題)は、未だにココロのナンバーワン官能小説です。

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※その時に買った号(1982年5月号)。後に吉祥寺の古書店で再入手した。
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※その号の裏表紙。カトリーヌ・ドヌーヴ主演の「終電車」。おそらく勝手に掲載していたのでは?

 高校生になると僕もずいぶん厚かましくなりまして、堂々とエロ本屋に出入りしていました。高校はお茶の水だったもので、ビニ本の聖地である神田神保町芳賀書店なんかにも通っていました。
 でも、高校生は貧乏でもありました。高価なエロ本はなかなか買えない。そこで、もっぱら地元の浦和の古本屋で購入していたんですね。神保町の古本屋よりも、相場が安かったもので。
 中でも浦和古書センターという店が一番のお気に入りでした。名前こそ「センター」ですが、古くて狭い店内に古本、古雑誌が山と積まれているという当時の典型的な古本屋でした。そしてエロ本が充実していたのですね。この浦和古書センターで出会った数々のエロ本に魅せられ、僕はその後にエロ業界で働くようになったのでした。

 さて、この浦和古書センターという店、当時から古かったのですが、なんとまだ健在! そして本の山はあれから二十数年で更に蓄積し、すごいことになっているというのです。
 無類の古本好きである友人のとみさわ昭仁さんが、昨年ここを訪れたものの、あまりのすごさに店内に入れなかったと。
 うわぁ、そりゃ行かなくちゃと、同じく古本好きの柳下毅一郎さんと3人で向かったのです。その日はせっかくだからというので、赤羽からひと駅づつ下車して古本屋を巡るという京浜東北線古本ツアーをしたんですね。

その時の模様はこちら。
d.hatena.ne.jp

 そしてゴールとして浦和古書センターに向かったのですが、なんと定休日! 浦和古書センターは、火水木と週に3日も定休日があるんですよ。まぁ、当時の人たちが店主なら、しょうがないですよね。もうかなりの高齢のはずですから。
 てなわけで、その日は浦和古書センターを再訪することは出来ず、ずっと気になっていたのです。いつかは訪れなければ、と。

 ところで、今年、東京三世社という出版社が自主廃業を決めました。東京三世社は、日本のエロ出版社の草分け的存在で、かつては吉行淳之介中村メイコも働いていたといいます。
 実は僕のエロ本デビューも東京三世社でした。1987年に「台風クラブ」という雑誌でファッションヘルスの体験ルポを書きました。当時は僕は別の出版社でアイドル雑誌をつくっていて、アルバイトとしてこっそり書かせてもらったのでした。
 そういう意味でも僕にとって大きな存在の東京三世社ですが、さらにあの「SMセレクト」の版元でもあったのです。
 だから東京三世社廃業のニュースを聞いた時、僕は自分の「エロ本」の原点が失われたような気持ちになりました。
 そして思ったのです。今こそ自分の「エロ本」の聖地を見に行かなければ、と。

 まずはあの商店街の本屋です。全国の書店がものすごいペースで閉店している時代です。あんなに小さい本屋が、残っているはずがない。それはわかっていました。
 京浜東北線南浦和駅を降り、そして徒歩10本ほど。商店街というのもためらわれるような、ちょっと店が集まった程度の小さな通りです。僕が浦和を離れて、すでに25年。ここを訪れるのは初めてです。

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 当時の面影は全然ありませんでした。いや、当時のままの店もあったのでしょうけど、僕の記憶があまりにも薄れていました。そして、その商店街には書店はありませんでした。たぶん、この辺だったと思うけど…、という場所には和菓子屋がありましたが、だいぶ年季の入った店構えでした。本屋は僕が浦和を離れて、そう経たないうちに閉店したのでしょう。

 初めからあきらめていたものの、それでもやっぱり寂しい気持ちになりつつ、僕はその辺りを歩きまわりました。25年の歳月はあまりに長く、記憶の残っている街並みはほとんどありません。
 確かここの角にエロ本の自動販売機があったんだよなぁ。朝とか夜とか、ランニングに行くとか言って家を出て、こっそり買ったんだよなぁ……。などを思い出すも、もちろん自販機が残っているはずもありません。

 僕はとぼとぼと、浦和の浦和古書センターに向かいました。商店街の変わり様を目の当たりにした後だと、本当に浦和古書センターが残っているのかという気持ちになってきます。つい先日、閉まっている店頭は見ているから、間違いなく残っているはずなのですが、妙に不安な気持ちになってしまいます。

 そして、浦和古書センターはありました。「古書」と大きく書かれたホロ屋根は当時と変わりないのですが、開け放たれた扉から見える店内は、確かに蓄積化が進み、すごいことになっています。うわぁ、これはとみさわさんが、入れなかったのもわかるわぁ。

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 人間の身長以上に積み上がった本と雑誌の山がいくつも並び、本棚は完全に隠れています。体を横にしないと店内には進んでいけそうにありません。しかし僕はこの店に来るために浦和に戻ってきたのです。意を決して入ります。
 歴史のある古本屋ならではの独特の匂い。そして時空の入り乱れた本の群れ。昭和初期のものと思われる歌本が最近の雑誌の上に積み重なっています。はっきりいって、ゴミの山にしか見えないでしょう。

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 中央の本棚はかろうじて見ることが出来ます。そうそう、この奥の方の本棚がエロ本コーナーなんだよな。70年代のSM雑誌や「奇譚クラブ」や「あまとりあ」といった60年代以前のエロ本が棚にはズラリと並んでいます。そして手前の通称エサ箱には、最近のDVD付エロ本やアイドル写真集などがたくさん刺してあります。
 僕の欲しい80年代エロ本は残念ながらほとんどありませんでしたが、それでも古いエロ本で面白そうなものを5冊ほど買いました。

まずはこの旅の原点とも言える「SMセレクト」東京三世社)。

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 本当は僕の買った1982年の号が欲しかったんですが、この日は見当たらず1978年8月号を。SM雑誌って、70年代以前のものは意外に見つかるんですが80年代以降があんまり無いんですよね。あんまり価値が無いということなのでしょうか。
 78年の時点で、僕が読んだ82年の号と雑誌の構成はほとんど変わりませんね。巨匠・杉浦則夫先生のSMグラビアに佐伯俊男のイラスト。団鬼六の小説は「鬼ゆり峠」。絵物語に体験ルポ。僕の敬愛する作家、杉村春也先生はまだ登場していないようです。
 ところで僕が「SMセレクト」を買う理由のひとつだった裏表紙は、「女子学生マル秘レポート HOTバイブレーション」という洋物成人映画の広告。

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ありゃ、これじゃ当時の僕は買えなかったな。

「問題SM小説」(コバルト社)1970年11月号。

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ウィキペディアによれば、日本で初めて誌名に「SM」を使った雑誌なんだそうです。でも表紙に「SUSPENSE」「MYSTERY」と言い訳のように書かれているのが面白いですね。内容は、あまりSM色が強くなく、ちょっと変わった官能小説誌という感じ。特集の「SM用語読物辞典」にも「トルコ風呂」「ビデ」なんて、あんまりSMとは関係なさそうな言葉が並んでいるのが象徴的。後にマゾ男性向きの内容に変わっていったそうで、どちらかというとそっちの方を入手できれば面白かったかも。

「Sadism・M」桜桃書房)1979年6号。

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表紙以外カラー無し。内容も実話誌に毛が生えた程度で、お世辞にもSM雑誌としてのクオリティは高くないですね。マゾ男性向けの記事が割と多いあたりが少し珍しいかな。


「Viva! Girl」(鳳苑書房)1972年9月号。

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これはSMではなくヌードグラビアメインの雑誌。横尾忠則ばりのコラージュなど、ポップなデザインが多くて、結構楽しめます。

「面白半分」(面白半分)1978年2月号。

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エロ雑誌ではなく、1972年から1980年まで発行された伝説的なサブカルチャー誌です。吉行淳之介野坂昭如開高健五木寛之藤本義一金子光晴井上ひさし遠藤周作田辺聖子半村良などの人気作家が半年ごとに交代で編集長を務めました。僕の買った号は、最も人気が高かったという筒井康隆が編集長。山下洋輔タモリ眉村卓豊田有恒と執筆陣も豪華。東海林さだお横田順彌のファッショングラビア(!)が掲載されているのがたまりません。

これだけ購入して1800円。いやぁ、やっぱり浦和古書センターは安いです。いや、ま、安いのばかりを狙って買ったということもありますが。

せっかく浦和まで来たのだからと、他の古本屋も3軒ほど回りましたが、戦果なし。それじゃあというので、二駅戻って蕨へ。ここには前回の古本ツアーの時に宝の山だと驚嘆した「N」という名店があるのです。ここでも「平成性風俗考」(久家巧 1995年 三一書房「川嶋のぶ子のビデオフォーカス」(川嶋のぶ子 1983年 秀英書房)「ピンサロジー(萩原彰 1981年 徳間書店「売春許すまじ 松本市トルコ風呂建設反対の記録」(松本女性史の会 1984年 銀河書房)と3000円分購入して、ホクホク顔で帰路についたのであります。

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しかし、古本屋が街からどんどん消えていっております。古いエロ雑誌も一緒に消えています。浦和古書センターでもそうでしたが、70年代以前のエロ雑誌は貴重ということもあって、意外に売っているのですが、80~90年代となると見つけるのが難しくなってきています。僕にとってはやはり80年代が思い入れのあるところ。そんなわけで、ヒマを見つけては、古本屋をめぐって80年代のエロ本を探しているのであります。


※「メンズナウ」2010年10月掲載。

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