ダリブロ 安田理央Blog

フリーライター安田理央のBlogです。

エロの現場におけるハダカの意味

 担当がH氏からS君に変わった。ライターが個人事務所を持っていると聞くとすぐに「女連れ込むんでしょ、いいですねぇ、うらやましい」と妄想を暴走させることはあっても、直接的にはエロに興味はなさそうだったH氏と違って、S君はかなりAV好きと聞く。

「はい、休みの日はだいたい2~3本は見てますね。素人ものが好きです。特にギャルがやられるのがいいですね」
 おお、若者のエロ離れが進む今、なかなか有望な青年ではないか。そんなS君も風俗には足を踏み入れたことは無いという。
「だって怖そうなんですもん」
それは偏見だ。そりゃ一部に怖い店も無いでは無いが、たいていの店はちゃんとした客商売。怖い思いをすることは滅多にないのだ。
 よし、僕がその偏見を無くしてあげよう。とりあえずこれから風俗店に取材に行くから、ついて来なさい。

 と、いうわけで高田馬場の某性感ヘルスへの取材にS君を同行させた。
 20歳のあいこちゃん(T148B84W59H89)にインタビュー。小柄ながらも出るところは、しっかり出たナイスバディな女の子に「プライベートで何人くらいとやった?」とか「性感帯は? クリと中だと、どっちが感じる?」とか、まぁ普通だったらセクハラどころの騒ぎじゃない露骨な質問を浴びせ、その後、ヌード撮影。あの風俗店の狭い個室の中で、すぐ目の前に全裸の女の子が横たわっているという、考えてみれば、かなり刺激的な状況ではある。それを、じーっと見学するS君。さぁ、健康な二十代男子、どう感じた?


 取材後、近所のルノアールで昆布茶をすすりながら感想を聞く。
「いやー、意外にエッチな気分にはならないもんですねぇ」
「ならないもんなんだよ。AVの撮影現場とかでさ、モロに目の前でマンコにチンコが出入りする様を見ててもね、仕事だと思うとエロになんないんだよな」
 そうなのだ。仕事の現場で見る裸というものは、全くもって興奮の対象にならないのだ。僕らは毎日のように裸を見ているから、麻痺してしまったというわけではない。現にエロ仕事の現場に初めて立ち会ったS君が、全く興奮しなかったではないか。ま、本人申告だから、実はキチンと勃起していたのかもしれないけど。

 なぜ、女の子の裸が目の前にあってもエロの対象にならないかといえば、それはもうエロ仕事の現場に裸があるのは、当たり前だからだ。女の子の側も当たり前に脱ぎ、スタッフもそれを当たり前のように見る。予定調和。女の子に気を使ってか、必要以上に仕事っぽく振る舞うことも多い。

 しかし、そんな裏側を十二分に知っている僕でも、他人の現場は羨ましかったりする。例えば自分も原稿を書いている雑誌で、他のライターが担当した可愛い女の子の過激な企画グラビアなんかを見たりすると、羨ましいと思ってしまう。なんでこっちの仕事をオレに回してくれないんだろうと編集者を恨んだりもする。実際にその現場に行けば、ちっとも羨ましいことなんてないんだと、わかっているのに、誌面で見ると羨ましくて嫉妬してしまう。

 某マニア誌の編集長も、同じようなことを言っていた。自分の趣味に即した雑誌を作っている方なので、誌面を見てオナニーすることもあるという。しかし、自分が現場を手がけたページでは、やはりオナニーできないそうだ。
「だからできるだけ、現場行きたくないんだよねぇ」
と、その編集長は言っていた。自分が行こうが行くまいが、どの現場だってエロくないことは十分にわかっているはずだろうが、自分がその場にいなければ、妄想の余地があるということか。

 きっと僕らの中には願望があるのではないだろうか。本当は女の子は、そう簡単に脱いだり、あんなことやこんなことをするわけがないんだと、そう信じたいんだと思う。あんなに「お仕事」として、クールに出来る方がおかしいんだと。だから、自分の現場では、たまたま「お仕事」っぽくても、他の現場では、もっとエロいムードがあるんじゃないかと希望を持ちたいのだ。エロ業界以外の人が、エロ現場に期待するものと同じものを、僕らも心の底で期待しているのだろうなぁ。

 そういや、僕が手がけたナンパ・ハメ撮りの記事を見た別のエロ雑誌の編集者N君が電話をかけてきたことがあった。
「安田さん、あんないい女、本当にiモードでゲットしたんですか? 羨ましいなぁ。今度、僕にも紹介してくださいよ」
僕はちょっと呆れた。
「あのね、ヤラセに決まってるでしょ、あんな顔出しハメ撮り。だいたいキミのとこでも、この間、同じようなヤラセのナンパ記事やったばかりじゃないか」
「え、ヤラセなんですか、なーんだ、がっかり」
 これ、エロに限らないのかもしれないが、編集者というのは、どういうワケか自分がさんざんヤラセとかインチキな記事を書いているくせに、他の雑誌の記事は本当であって欲しいと願っているようなのだ。
 エロ仕事をしていたって、いつまでもピュアな気持ちを忘れていないのさ、僕たちは、というところだろうか。違うか。単に現実を認めたくないだけなのか。

「でも、今度はAVの現場に連れて行ってくださいよ」
と、ルノアールのココアをすすりながらS君が言う。
「AVの現場なら、きっと興奮すると思うんですよ。やっぱりギャル系の撮影がいいなぁ。男優10人くらいでハメ倒すようなヤツ」
 どうやらS君もピュアなハートの持ち主のようである。

*「BUZZ」(ロッキングオン) 2001年3月号 「SEX,BRAIN,ROCK'N ROLL」より。
エロ業界あるあるですね。連載掲載時には編集者の名前は表記してましたが、イニシャルにしてみました。

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